ベーシックの在り方を模索し続けるルノートゥインゴ

1992年にルノーから登場したトゥインゴは、以来3世代に渡って大きく姿を変えてきました。同じ名前なのにモデルチェンジのたびに別の車種のようにコンセプトが変わるルノー トゥインゴ、しかしルノーのベーシックモデルとしての立ち位置は常に一貫してきました。今回は3世代に渡るトゥインゴの歩みについてまとめました。

ルノー トゥインゴの歴史

ときに1989年、ビロード革命で民主化したチェコ政府は、自国の老舗自動車会社であるシュコダを民営化して、西側の自動車会社とのパートナーシップを模索していました。そこに手を挙げたのがフランスのルノーで、新規に設計された小型車をシュコダの工場で製造する方向で話が進んでいたものの、そこにフォルクスワーゲンが割って入り、結局ルノーとシュコダのジョイントプロジェクトは水泡に帰してしまいました…。

ルノーがシュコダの工場で作るはずだった小型車、それがトゥインゴでした。旧共産圏で製造し、冷戦の間止まっていた時計の針を進めるために、トゥインゴの設計は非常に割り切られていて、1960年代に設計された熟成を通り越して枯れた技術のエンジンを、最新の思想で作られた優れたパッケージングの車体に押し込んでいました。

総じて見ると、トゥインゴはチェコの国民車になる機会を逸したものの、先進国のユーザーの需要にも十分耐え得るものでした。そこでルノーはトゥインゴを自社工場で生産することにしたのです。

トゥインゴがベールを脱いだのは1992年、パリでのことでした。以来20年以上の歳月に渡り、トゥインゴはルノーのエントリーモデルであり続けています。

時代と共にカタチを変えてもベーシックなことだけは変わらない

1993年の初代のTVCMと、同じテーマで作られた2012年の2代目のTVCM。 なんとなく売り始めたら思っていたより売れたのか、或いは採算が取れるほど売れず減価償却が終わらなかったのか、諸説ありますが、果たして最初のトゥインゴは2007年まで長期間に渡って作り続けられました。あまりにも長い間トゥインゴは同じカタチで作り続けるので、このまま生産中止されてしまうのか、あるいは思想だけ受け継いで違った自動車に同じ名前が付くのか、注意深く見守っていた自動車好きがどのくらいいたのかは定かではありませんが、果たしてトゥインゴは思想だけを受け継いで新型へ移行する道を選びました。但し、その思想はパッケージングの先進性の部分ではなく、エントリーモデルとしての割り切りの部分でした。

割り切りとはいっても2代目のトゥインゴは、より上級のルーテシア(2代目)の設計を流用して作っているので、なかなか立派な自動車として仕上がっていて、スポーティーな乗り物としてそれなりに注目を浴びましたし、実際にルノースポールからスポーツバージョンも発売されました。しかし見た目のカタチは初代とは少なからず別の乗り物のようになりました。例えば2012年には1993年と同じノリでCMを作りましたが、あくまで仕立て方が同じだけ、正直あまり似ていない…。

3代目のトゥインゴに関しては、新たに提携したメルセデス・ベンツのスマートと兄弟車の関係になりました。登場前はこれでルノーがドイツ色に染まってしまうのではと危惧されたりもしましたが、蓋をあけると、どうしてなかなか、魅力的なモデルに仕上がりました。但し、エンジンは後ろに移動しました。登場から20年を経て、トゥインゴは全く別のカタチの乗り物になってしまいました。

つまるところトゥインゴの割り切りとは、そのとき手駒にある素材を効果的に使うことなのです。ベーシックモデルとして多くの人に手に入れやすい価格で販売する上で、これは大切なことです。自動車としては連続性がないに等しいに見えるものの、しかしその志は確かに初代から一貫して続いているのです。

足るを知りながら生きたい方へ

20年以上に渡ってルノーのエントリーモデルとしての役割を果たし続けてきたトゥインゴには、威圧感も高級感もありません。品質も質感も基本的には必要最低限。決して悪くはないものの、小型車でも徹底的に品質管理された日本車と比べると「なんだかなぁ」と思ってしまうようなところも、探せばあちこちに出て来てしまうでしょう。

ネット上で検索すると「足るを知る」という言葉の解釈には幾つかの考え方があるようですが、自動車については、余裕はないものの必要最低限な性能を持つ車種に関して、この表現が使われる傾向があるようです。古くからヨーロッパの小型車は、特にフランス車は、そういった性質が強いと言われていました。そして、このトゥインゴもまた、「足るを知る」に近いところにいる存在であることは間違いないでしょう。

自動車なんて所詮は移動手段、そういった潔さを求める人にとっては、トゥインゴはモデルの世代やグレードを問わず、素晴らしい道具として活躍してくれるのではないでしょうか。



小さなエスパスとして作られた1代目

初代トゥインゴのデザインを行ったのは、1990年頃から約20年近く、ルノーのデザインについて陣頭指揮をとったパトリック・ル・ケマンでした。彼はトゥインゴを販売するに当たって、単なる安グルマではなく、ヒエラルキーの外側にいる存在として位置づけようとしたと言われており、1980年代からルノーが販売していたモノスペースの多目的乗用車(MPV)であるエスパスの縮小版として、トゥインゴを位置づけました。

例えば初代トゥインゴの全長は約3.4mで日本の軽自動車と殆ど変わりませんが、後部座席にはスライド機能や優れた折りたたみ機能が備わり、必要に応じて高級車顔負けの後席スペースを確保したり、非常に広い荷室を確保することが出来ました。これはまさにル・ケマンの思想を体現するものでした。

初代トゥインゴのボディタイプ

初代トゥインゴのボディバリエーションは、基本的に3ドアのハッチバックのみです。ちなみに、左ハンドルに最適化されているので、右ハンドル仕様は最後まで作られませんでした。

細かい部分では屋根が開く仕様があり、当初は布地のキャンパストップ、その後はグラスルーフ(大型電動ガラス製サンルーフ)となりました。ヨーロッパの小型車にとって、天井が開く仕様は定番アイテムで、多くのユーザーから歓迎されたようです。

初代トゥインゴのグレード

生産期間の長い初代トゥインゴには限定車を含めると非常に多くのグレードが設定されました。ただ、日本へ輸入されていたのは、上位モデルとしてエアコンやパワーウィンドウなどの快適装備を標準装備とした、「パック」というモデルが基本でした。

「パック」はオーソドックスな5MTでしたが、日本の事情を鑑みて、導入当時から「イージー」という2ペダルのMTが導入されました。これはクラッチペダルが無い以外は普通のMTと同じで手動変速が必要なシステムで、当時としては先進的な装備だったものの、当初は渋滞の登り坂などでは調子を崩すことも多かったようです。

2000年頃からは「クイックシフト5」という新しい変速機が「イージー」の代わりに登場しました。クイックシフト5は自動変速モードを備え、操作の上では普通のATと大きくは変わらなくなりました。また、必要に応じてこれまで同様の手動変速を行うことも出来ました。

トゥインゴの日本への正規輸入は2001年ごろを最後に途絶えますが、それ以降も並行輸入などで日本へ持ち込まれたトゥインゴは少なくなかった様です。その中にはパワフルなエンジンを持つ「16V」や、本革シートを備えた最高級モデルの「イニシャル・パリ」なども含まれていたようです。

以下のスペックでは代表的な2001年モデルの「パック」を中心に、括弧内では「クイックシフト5」についても書きます。

初代トゥインゴのスペック

ルノー トゥインゴ パック [クイックシフト5](2001年モデル参考値)

全長 3,425mm(軽自動車より僅かに+25mm!)
全幅 1,630mm
全高 1,435mm
ホイールベース 2,345mm
トレッド 前/後 1,420mm/1,375mm
車両重量 850kg [880kg]乗車定員 4人

最小回転半径 4.9m

エンジン 直列4気筒SOHC8バルブ
排気量 1,148cc
圧縮比 10.5
最高出力 43kW [58ps] / 5,250rpm
最大トルク 91.2Nm [9.3kg-m] / 2,500rpm
燃料タンク容量 40L

変速機 5MT [クイックシフト5(5速2ペダルMT)]サスペンション前/後 マクファーソンストラット / トーションビーム
ブレーキ前/後 ベンチレーテッドディスク / ドラム
タイヤ 155/70 R13

福野礼一郎クルマンガ (1) (FUTABASHA SUPER MOOK)
初代トゥインゴの評価が掲載された自動車評論漫画

世界戦略を睨んだ2代目

2代目トゥインゴのコマーシャルは基本的にセクシー路線 2007年に、トゥインゴも新しいモデルにバトンタッチすることになりました。初代トゥインゴが21世紀を生き長らえたのは、設計年度の割には衝突安全性が決して低くはなかった点がありますが、一方で初代トゥインゴは構造上、左ハンドルしか作れず、イギリスやオセアニアなど、右ハンドル圏での販売が困難だという問題がありました。

そこでルノーは2代目トゥインゴのベースとして、1998年からヨーロッパで販売されていたクリオ(日本名ルーテシア)の2代目のプラットフォームを流用することにしました。当時、既にクリオはモデルチェンジしていましたが、廉価版として生産自体は続いていたのです。

2代目クリオのホイールベースを切り詰めて作った2代目トゥインゴからは、初代のようなスペース効率の塊のような思想は失われましたが、代わりにスポーティーな運転感覚と、初代よりも重厚な乗り味を獲得しました。

デザインは当初はスポーティーな印象を持つ顔立ちでしたが、2012年にはマイナーチェンジを行い、複雑なライトの造形に変わりました。

2代目トゥインゴのボディタイプ

2代目トゥインゴは登場前から5ドアモデルが登場するのではと言われていましたが、実際には初代同様3ドアハッチバックのみの設定となりました。(当初噂されていた先進的なパッケージングを持つ5ドアのスタディモデルは、モデュスという別のモデルとして先行して販売されました)

3ドアハッチバックのみとはいえ、初代で人気を集めたキャンパストップやグラスルーフは2代目でも継承されました。

またトゥインゴという名前ではありませんでしたが、派生車種としてウインドという2シーターのオープンカーがラインアップされています。

2代目トゥインゴのグレード

2代目トゥインゴのベースとなった2代目クリオの設計に柔軟性があったので、初代トゥインゴと比べてエンジンのラインアップは、かなり多彩になりました。

エンジンとは別に装備品等に応じたグレードも設定されており、この中にはスポーティーな「GT」や豪華装備の「イニシャル・パリ」などがありました。

日本にはこの中から、当初は1.2Lガソリンの、自然吸気とターボの2つがピックアップされ、自然吸気はベーシックな仕様にクイックシフト5の組み合わせ、ターボは「GT」グレードに5MTとグラスルーフを組み合わせた仕様で導入されました。但し導入されたタイミングは円安で、日本での価格設定は上級車と変わらなくなってしまい、途中から予めオプションを装備した限定車が多数設定されました。

また本国では途中から、本格的スポーツモデルとしてルノースポールバージョンが投入され、日本にも導入されました。ルノースポールの導入で他のモデルは日本での販売を終了しました。

ルノースポールバージョンには、サーキットを視野に入れたシャシー・カップと、街乗りメインのシャシー・スポールのバリエーションがありました。また高級かつ上質なモデルとして、ストライプや専用内装をまとったゴルディーニ仕様も追加されました。

日本では販売時期によって、その組み合わせが異なりましたが、非ゴルディーニがシャシー・カップ、ゴルディーニがシャシー・スポールというのが原則でした。

以下のスペックの記載は導入末期の、ルノースポール仕様後期型です。

2代目トゥインゴのスペック

ルノー トゥインゴ ルノースポール(2013年モデル)

全長 3,700mm
全幅 1,690mm
全高 1,460mm
ホイールベース 2,365mm
トレッド 前/後 1,460mm/1,445mm
車両重量 1,090kg
乗車定員 4人

最小回転半径 5.2m

エンジン 直列4気筒DOHC16バルブ
排気量 1,598cc
圧縮比 11.1
最高出力 98kW [134ps] / 6,750rpm
最大トルク 160Nm [16.3kg-m] / 4,400rpm
燃料タンク容量 40L

変速機 5MT
サスペンション前/後 マクファーソンストラット / トーションビーム
ブレーキ前/後 ベンチレーテッドディスク / ディスク
タイヤ 195/40 R17



エンジンを後ろに載せ替えた3代目

3代目のトゥインゴは2014年に発表されました。

メルセデス・ベンツの小型車であるスマートの3代目と兄弟車となるべく共同開発されたので、エンジンはリアに搭載されました。またドアの枚数はこれまでの3ドアから、ついに5ドアになりました。

3代目トゥインゴのプロモーション・ビデオ

3代目トゥインゴのボディタイプ

2015年現在は5ドアハッチバックのみの設定ですが、キャンパストップが設定されるようです。最早お約束ですね。

ただし今のところ日本にキャンパストップ仕様が正規輸入されるのかは不明です。

3代目トゥインゴのグレード

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3代目トゥインゴはヨーロッパでは約1.0Lの直列3気筒エンジンと、約0.9Lの直列3気筒ターボエンジンの2つのエンジンに、それぞれ「ゼン」(日本の禅に由来)や「ディナミク」(ダイナミック)といったグレードが組み合わせられています。

2015年の東京モーターショーでは、日本法人のルノージャポンが3代目のトゥインゴを、2016年に、上位となるターボエンジンに、2ペダルMTであるデュアルクラッチトランスミッションとの組み合わせで販売すると発表されました。

3代目トゥインゴのスペック

ルノー トゥインゴ (2016年日本導入モデル)

全長 3,595mm
全幅 1,646mm
全高 1,554mm
ホイールベース 2,492mm
トレッド 前/後 1,452mm/1,425mm
車両重量 943kg(5MT参考値、大きく増加する可能性があります)
乗車定員 4人

最小回転半径 5.2m

エンジン 直列3気筒DOHC12バルブ ターボ
排気量 898cc
圧縮比 9.5
最高出力 66kW [90ps] / 5,250rpm
最大トルク 135Nm [13.8kg-m] / 2,500rpm
燃料タンク容量 45L

変速機 6EDC(6段デュアルクラッチトランスミッション)
サスペンション前/後 マクファーソンストラット / ド・ディオンアクスル
ブレーキ前/後 ベンチレーテッドディスク / ドラム
タイヤ 185/60 R15

中古車で買うなら高年式のトゥインゴRSがおすすめ

とにかく世代によって姿形を大きく変え続けるトゥインゴ、中古で選ぶ場合はあまり比較せずに、ピンポイントで欲しいか欲しくないかといったモデルではないかと思います。初代に強く惹かれる方は、それほどまでには2代目に魅力を感じられないかもしれません。逆もまた然り。

ですが、敢えておすすめするならば、2代目のルノースポールバージョンではないでしょうか。かけた価格に応じた体験が得られることでしょう。ベーシックカーとしてのトゥインゴの思想からは離れてしまう部分もありますが、乗り出し価格や自動車税はさておき、部品代はそれほどスポーツモデルと変わらないというのが、中古でトゥインゴのベーシックなモデルと選ぶ場合は少なからず問題になってしまうのです。

まとめ:トゥインゴは生まれた時代を体現しているクルマである

駆け足で各世代のトゥインゴをまとめてきましたが、いかがだったでしょうか?

冷戦の集結と共産主義国家の民主化。
アメリカの同時多発テロと、リーマン・ショック前の世界情勢。
リーマン・ショック後の不景気と中国市場の急成長。

紹介してきた3代のトゥインゴは、それぞれの時代に於いて求められるベーシックカーとしての在り方を体現すべく作られてきました。自動車は大なり小なりそういう性質がありますが、特にその成り立ちにある種の癖があるトゥインゴに触れることは、生まれた時代を間接的に知ることが出来ます。

その意味で、生産年から時間が経ったトゥインゴは、ベーシックカーではなく、ある種の趣味性を伴った自動車へと存在を変えていくのかもしれません。