アルファロメオ155 新時代を拓いたスポーツセダン

「アルファロメオ 155」は、1992年から1997年まで生産されたセダンです。当時、アルファロメオとしてはひさびさのFF車、しかも一般的なセダンとあって、今ひとつ地味な存在ですが、長いアルファロメオの歴史にあって、実はターニングポイントとなった車種なのです。詳しい内容を見てみましょう。

新生アルファロメオを告げるモデル

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ティーポ2/3プロジェクトによる開発

155のサイズは全幅1,695×全長4,445×全高1,440ミリ、日本でいうならカローラあたりのボディサイズでしょうか。エンジンはアルファロメオ伝統の2リッターNAでデビューしています。

このモデルがデビューした当時、生産の合理化を目指してシャシーの共同開発が盛んに行なわれるようになりました。155も例外ではなく、同じアルファロメオの2ボックスモデル「145」のほか、フィアットの2ボックス「ティーポ」とセダン「テムプラ」、ランチアのセダン「デドラ」と2ボックスの「デルタ」と、幅広いモデルと共同開発されています。ちなみにこのシャシー共同開発プロジェクトは「ティーポ2/3」と名づけられています。 出典: http://en.autowp.ru/picture/o7mri9
155と同時開発された、フィアット ティーポ

フィアット傘下での開発

このティーポ2/3プロジェクトで、アルファロメオだけでなくフィアットやランチアなど他車モデルまで、なぜ共同開発されたのか、疑問にお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
その理由は、それらはひとつの会社だったからです。正確には、フィアットを親会社とした子会社という関係です。フィアットはイタリアの自動車業界の盟主として、その他にもフェラーリやマセラッティといった会社も傘下に収め、“フィアット・ファミリー”を形成しています。

資本をひとつにして開発の体制や工場を共同化し、それによって生み出された人的パワーや施設を上手に活用して、ユーザーの望む個性的なクルマをつくる、そういった体制づくりがこの時代から始まっていたのです。
155は、そういった体制が生みだしたモデルでもあったのです。 出典: http://en.autowp.ru/picture/444106

ひさびさのFFモデル

もうひとつ、155がそれまでのアルファと違っていた点があります。それはFFという駆動方式です。
アルファロメオは、スポーティなクルマのメーカーとしてそれまでFRを中心とした後輪駆動車を多くリリースしてきました。155の前身となる「75」もFRで、しかもトランスミッションをリアに置くトランスアクスル方式により、前後の重量比を50:50とし、さらに、ドディオンアクスルやアウトボードブレーキなど、レーシングカーなみの凝ったメカにより、優れたコーナリング性能を身につけていました。

こうしたマニアックなクルマづくりが、アルファロメオが指示されてきた理由のひとつだったのですが、これがこの時代を境にガラッと変わることになります。
アルファロメオがフィアットの傘下に入ること、そしてティーポ2/3プロジェクトにより、次のモデル開発が決まったことが、アルファロメオに“つぎのクルマづくり”を促したのです。 出典: http://en.autowp.ru/picture/475877

信頼性や耐久性も重視

こうして、155は新生アルファロメオを象徴するモデルとしてデビューしました。そのボディやシャシー、エンジン搭載方法といったクルマ全体の構成はもちろん、例えば信頼性や耐久性にもさまざまな改良が加えられました。

それまでアルファロメオには「壊れやすい」といったネガティブな評価がありました。実際、過去のモデルにはボディパネル内側に防錆処理を行なっておらず、そこから錆が進行するといったことがありました。
新生アルファでは、こうしたネガティブなポイントも潰すべく、設計から生産などのさまざまな点で信頼性や耐久性を向上させる改良が施されました。まさに、生まれ変わったアルファロメオが誕生したのです。



どんなモデルだった?

シャープなウェッジシェイプのデザイン

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アルファロメオのセダンは、ファンの間では親しみを込めて「醜い」などとよくいわれます。155もそんな“伝統”に則ったデザインです。

ウェッジシェイプが強く効いたフォルムは、ひと目見ただけで、前モデルの75のデザインをベースとしていることが分かります。75ではサイドラインがリアタイアのあたりでキックアップして折れ線グラフのようなラインを描いていましたが、それがスッとリアまで一直線となり、シンプルなウェッジシェイプとなりました。

フロントは、アルファロメオ伝統の盾のエンブレムを中心に、台形のヘッドランプレンズがセットされます。低めに構えたそのフロントに比べ、リアエンドはアンバランスなほどグッと高く、真後ろから見ると大きな箱のようなデザインとなっています。もう少し上に伸ばせばワゴンボディが作れそうです。

レース仕様は、さらにカッコいい

そんなボディも、レース(成績は後述します)用に仕立て直すと、がぜんオーラを放ち始めます。車高を落とし、フロントにエアダムを入れ、サイドスカートを装着し、リアにスポイラーやウイングを付けると、とても速そうな(実際に速かった)スタイルに変身します。それはまさに、クラークケントがスーパーマンに変身! といった感じです。

そんな変身ぶりも歴代のアルファロメオのセダンと同じです。60年代の「ジュリア・ベルリーナ」、70年代の「アルフェッタ」、80年代の「75」、それぞれデザインは違えど、レース用マシンのカッコ良さはどれも迫力満点です。
初めからレース用マシンデザインして、そこから“引き算”して市販モデルを作っているかのような、そんな感じさえします。アルファロメオならではのレースの遺伝子が組み込まれたデザインともいえるでしょう。 出典: http://favcars.com/alfa-romeo-155-2-0-ts-d2-silverstone-se058-1994-photos-138682.htm

大人4人が快適に乗れて、しっかり積める

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イタ車というとスポーティカーやスーパーカーがすぐに思い浮かび、ファミリーユースには適さないイメージもあるかもしれませんが、それは違います。大人4〜5人が快適に乗るために十分な広さ、さらに乗員がそれぞれに持っている荷物をしっかり納められるだけの広大なトランクをあわせ持ちます。
イタリアといえば、フランス同様に家族を大切にするお国柄です。こうしたお国柄はクルマづくりにも反映されているわけです。

155も、そんな“文法”に則って作られています。ドライバーズシートだけでなく、リアシートに座っても快適です。リアシートは単に広いだけでなく、前席よりも高くレイアウトされており、目線が高くなるため後席にありがちな“閉じ込められ感”が少ないのです。

そしてトランクは、前述したように高さがたっぷり確保されているので、収容力バツグン。サスペンションの出っ張りが最小限に抑えられているので、横方向のスペースもたっぷりしています。

リアシートの居住性、そしてトランクの収容能力、どちらも高いレベルで確保しようとした結果、極端とも思えるほどの尻上がり=ウェッジシェイプのデザインになった、とも解釈できます。

スポーティムードを演出する、アルファロメオ伝統のエンジン

エンジンは、「ツインスパーク」と呼ばれたアルファ伝統の2リッターエンジンがデビュー当時は踏襲されました。基本設計は60年代のジュリアシリーズから続くエンジンブロックに、75の時代に開発されたツインスパーク(1気筒に2本のプラグ)の8バルブシリンダーヘッドを装着、140ps/6,000rpm、19.3kgm/5,000rpmを発揮しました。

このほか、ランチアの4WDシステムを155に採用したモデルでは、ターボにより185ps/6,000rpm、30.3kgm/2,500rpmのハイパワーを誇るエンジンも搭載されていました。
さらに、アルファロメオの歴史の中でも特に名機とうたわれる2.5リッターV型6気筒SOHC(160ps/5,800rpm、22kgm/4,500rpm)のエンジンもモデル中期からラインアップに加えられています。

いずれも、アルファロメオ製らしく軽やかな吹き上がりと自然なパワー感で、ファンの支持を集めています。特にV6モデルは高回転まで回したときの快音と、そのときのダイレクトなパワー感は絶品で、このエンジンを使いために155に乗るという熱狂的なファンも多くいました。

モデル中期にエンジンをフィアット製に換装、しかし“こだわり”が・・・

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後期タイプ 16バルブ ツインスパークエンジン こうしたアルファロメオの歴史を継承したエンジンラインアップも、主軸のツインスパークエンジンが、155のモデルライフの途中で見直されます。
それまでのアルファロメオ製ブロックから、生産性に優れたフィアット製のブロックに変更されています。このとき、ティーポ2/3プロジェクトの他車は、そのままフィアット製のエンジンを搭載したのですが、155だけはアルファロメオ製の16バルブ・ツインスパークシリンダーヘッドに換装されました。またそれにともなって出力が150psになるなど、スペックも変更されています。

アルファロメオは、エンジンにも大きなこだわりを持つメーカーです。F1用のレーシングエンジンから155のようなファミリーカーまで、凝った設計や独自のテクノロジーを盛り込んできました。たとえフィアット傘下となって、生産性などの理由から共用化が進んでも、独自のアイデンティティは守り通したい、そんな意思が、このオリジナルのシリンダーヘッドに込められているようです。

コアなファンの中には、回転のフィールやエンジンノイズの出方などに関して、純アルファロメオ製の方を高く評価するユーザーがいて、現在でも中古車価格などで差がつけられている場合もあります。

走ってみると

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左ハンドル、5MTが基本

では、この155モデルで走ってみましょう。標準的な2リッターで、初期の純アルファロメオ製の8バルブ・ツインスパークエンジンのモデルを例にとります。

フロントシートに座ってみます。アルファロメオは基本的に左ハンドル、トランスミッションは5速MTのみです。この点が日本市場ではネックとなっていたようです。この後継モデルの156は右ハンドルモデルやセミオートマのトランスミッションなども用意し、それもあって大ヒットにつながっています。

ドライバーズシートからの眺めは広々として良好です。現在のクルマよりも立ち気味のAピラーにより、フロントウィンドウの下端が手元に近づいており、ウインドウを吹く場合なども楽に手が届きます。
ダッシュボードはデビュー直後のモデルではウッドステアリングや、インナーパネルを木目調に仕上げたラグジュアリー仕様も用意されていましたが、レースによるスポーティなイメージが強かったせいか、「スポルティーバ」と呼ばれるスポーティな仕様が人気あったようです。

俊敏なレスポンスのエンジンが楽しい

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エンジンをかけましょう。瞬間的なクランキングでエンジンはすぐに目ざめます。ツインスパークによる強い火花のせいか、ひとつひとつの爆発に手応えを感じます。そうしたエンジンサウンドやバイブレーションに呼応するように、エンジンルーム内部の補機類が音を立てます。エンジンだけでなく補機類まで渾然一体となった音は、1960年代のジュリアシリーズから続く伝統的な「アルファサウンド」であり、聴く人によっては心地よく替えがたいものです。

アクセルペダルに力を入れると、その分、エンジンが敏感に反応します。「ペダルとダイレクトにつながれたかのような」と評された俊敏なエンジンレスポンスは健在です。アルファロメオが魅力的なのは、そうしたレスポンスは空ぶかしの時だけでなく、走っていてもつねにドライバーに感じられる点です。走りの実感が違うわけです。

そのとき、純アルファロメオ製エンジンの場合、トロッとした回転フィールと少し重厚なサウンドとともに吹け上がるのが特徴です。ほどよく熟成されたウイスキーのようなタッチです。フィアット製の新バージョンは少し軽く、例えるならボージョレーワインのテイストです。

クイックな反応のステアリングでキビキビ走る

また155は、ハンドリングも以前からのアルファロメオ・タッチとは違えていました。
アルファロメオのモデルは基本的に“パラレル・ロール”のセッティングでした。コーナーで曲がるとき、前輪も後輪もほどよくロール(沈み込み)し、安定した姿勢でコーナーを回り込むのが特徴でした。

それが155ではロールを抑え気味にして、どちらかというとタイヤのグリップを利用して回り込む、当時のFF車の主流のようなセッティングとされました。これは、ロール重視の姿勢よりもクイックな特性を好むイギリス市場に応えたものといわれています。

軽快でダイレクトなエンジンレスポンス、そしてクイックなハンドリングで操るのが楽しくなる。だからいつまでも走っていたくなる。
FFになっても、ハンドリングのセッティングが変わっても、155はやはり痛快で楽しいクルマでした。 出典: http://en.autowp.ru/picture/w01lv8



レースでの輝かしい成績で、さらに人気に

DTMやBTCCで、チャンピオンを獲得

出典: https://www.museoalfaromeo.com/en-us/collezione/Pages/155-V6-TI-.aspx
実際のレーシングマシン 155 V6 TI そのレプリカ 
155といえば、レースです。その輝かしい戦績でも、アルファロメオの新時代を拓いたといってもいいでしょう。

まずあげられるのは、DTM(ドイツツーリングカー選手権)でのチャンピオン獲得でしょう。155を4WD化するなど徹底的に改造した専用の「155 V6 TI」を開発、ニコラ・ラリーニ、アレッサンドロ・ナンニーニといったF1で実績を持つドライバーとともにワークス参戦、メルセデス・ベンツやBMWといった強敵を相手に、1993年にラリーニが年間チャンピオン、アルファロメオもマニュファクチャラーズ・タイトルを獲得しています。
当時、アルファロメオはそれまでF1やスポーツカー選手権などに多く参戦していましたが、チャンピオン獲得はひさびさの好成績で、熱狂的なアルファロメオ・ファンはそれこそ驚喜していました。1985年に阪神タイガースが日本シリーズを制して、大阪中が沸きに沸きましたが、それを彷彿とさせるぐらいのインパクトがこのときの優勝にはありました。

また、DTM制覇の翌年はBTCC(イギリスツーリングカー選手権)でもチャンピオンを獲得しています。BTCCは、DTMほど改造範囲が広くないレギュレーションで、駆動方式はFFのままです。コーナーの縁石を通過する際、イン側の2輪を大きく跳ね上げたダイナミックなフォームでコーナリングする姿は注目を集めました。

一部のファンにとっては当時の熱はいまだに冷めやらないようで、DTMレプリカモデルや、BTCC仕様にドレスアップされたマシンを大切にして乗っているユーザーもいます。

そして156の大ヒットへ

155は今でも多くの人気を集めています。それまでのアルファロメオにありがちだったメカの気むずかしさは影を潜め、さらに信頼性や耐久性も上がったことで、長く乗り続ける人もいました。
DTMやBTCCでの活躍によって、“レースのアルファロメオ”のシンボルとしても注目を集めました。

その後、1997年に後継モデル「156」にモデルチェンジされます。156は、それまでのアルファの名車からインスパイアされたレトロテイストのデザインが人気を呼び大ヒットとなりました。155で築いたフィアットとのアライアンス体制、信頼性や耐久性を重視するクルマづくりの姿勢などが、後継の156で花開いたといえます。155はその意味で、新生アルファロメオのスタートを告げるモデルだったともいえます。