リコール問題にみるトヨタ車の品質

エアバッグなどで、ニュースを騒がせる自動車のリコール。トヨタ車でも例外ではないのです。でも、ある事故をきっかけにしたリコールが発端でアメリカを中心にして「トヨタ・バッシング」「トヨタ戦争」とまで言われた事態に見舞われた時代がありました。その荒れ狂う状況がどんなものだったかを、調べてみました。

目次

ニュースで良く聞く「リコール」とは何のか?

まず、最初にリコールについて理解しておきましょう。リコールとは、市場で販売された製品を製造者や販売者が回収・修理することを指しています。このリコールには、法令に基づくものと、製造者や販売者による自主的なものに大きく別れます。

良くニュースなどで「◯◯社が自社製品の△△の自主回収を決めた」などと言われるのは、自主的な会主的なものに当たります。製造者や販売者に法令に違反するような過失が無かったとしても、購入者が損害を受けた場合は、「製造物責任法」(いわゆるPL法)の規定で、原則として製造者などが損害の賠償責任を負わなくてはなりません。また、PL法の規定のように消費者が損害(怪我や病気、最悪の場合は死亡)するようなことがあれば、企業イメージが大きく低下してしまい、該当する商品の売上どころか、会社全体やグループ会社にまで大きな影響を与えることがありますね。そのため、損害が発生する前に回収に踏み切ることも少なくないようです。この場合、回収して修理するだけではなく、製品によっては、交換や返金などが行われていますが、自動車に関連する場合の多くは回収・修理が多いようです。

一方、法令に基づくリコールとしては、一般的な製品、例えば湯沸し器や暖房器具などは、消費生活用製品安全法で規定されていますし、お薬なら薬事法、食べものだったら食品衛生法が規定しています。そして、自動車については、道路運送車両法が対象になっています。そして、一旦リコールが決まると、製造者等が製品を無料で回収、修理するのです。

日本での自動車リコール制度

日本でのリコールが制度化されたのは、1969年6月に運輸省が出した通達で「リコール届け出」の受付が開始されたのがはじまりです。そして、その年の9月、運輸省令の「自動車型式規則」が改正されてリコール制度が法令として規定されました。法律になったのは、1994年7月のことで、「道路運送車両法」が改正され、「リコール制度」が法律として明記されています。

リコールだけではない、不具合へのメーカー対応

さて、自動車やオートバイのリコール。実は回収修理だけではなく、3つのレベルが規定されています。

■ リコール
自動車自体の構造や装置、あるいは性能が、自動車の安全や、公害防止の規定(道路運送車両の保安基準)に適応しなくなるおそれや、既に適応していない時、その原因が設計や製造の中にあれば、その内容を国土交通省に届け出て、無料で回収・修理を行うことを言います。

■ 改善対策
自動車自体の構造や装置、あるいは性能が、基準に適合していない状態だが自動車の安全や公害防止の観点で放置ができなくなるおそれがあるか、既に放置できないと判断された場合に、原因が設計又は製作の過程にある場合に、の原因が設計や製造の中にあれば、その内容を国土交通省に届け出て、無料で回収・修理を行うことを言います。

■ サービスキャンペーン
国土交通省の通達に基づく制度で、リコールや改善対策には当てはまらなくても、自動車の品質改善のため、メーカーが無料で行う自動車の修理を言います。

このような、リコールなどの届出が国土交通省にあれば、リコール対象の車種を販売したディーラーから個別の購入者に対してリコールを通知するため、ダイレクトメールが行われることになっています。 こういったリコールの実態は、幾つかの方法で把握することができます。一つは国土交通省が「自動車の不具合・リコール情報」として資料を公表しています。どのメーカーが何件のリコールを行い、その台数が何台だったのかを年度ごとに見ることができますから、クルマ選びの参考になるかもしれません。

国交省「リコール・不具合情報」
そして、乗っている自動車に不具合があると感じた場合には、ディーラーやメーカーだけではなく国交省でもホットラインを設けています。もし不安があれば、検索システムなどもありますから、参考にしてみてください。

国交省「クルマの異常を連ラクダ!」
また、トヨタなどのメーカーも個別に、リコール対象車・その不具合箇所、そして不具合によるリスクと改善内容を告知しています。その中には車種だけではなく、対象になる自動車の車台番号や製作期間も書かれているの、もしニュースなどで細かな情報を知ることができなくて不安なようでしたら、各メーカーのサイトで調べることもできます。

トヨタ公式サイト リコール情報



大規模化するリコール

自動車が完成するためには、下請けなど様々なメーカーなどのパーツが必要です。そして、コストを下げるために、異なる車種とのパーツの共通設計や共用化が進んでいるため、一つの車種で不具合が発生すると、他の車種にも波及してしまい、100万台を超えるリコールが起きてしまうこともあります。

更には、一つのパーツが複数のメーカーに供給されていると、「◯◯社の△△で起きた不具合が、今度は■■社の



でも起きた」ということも起きているのが実情です。このため、何かのリコールが起きると、該当する車種を運転しているドライバーさんだけではなく、同じメーカーや類似の車種のオーナーさんも不安を感じさせることになっていまいます。

数字から見てみたトヨタのリコール対応

さて、こう言ったリコール。ドライバーとしては、できれば最初の報告からできるだけ早く対応してもらいたいものです。また、メーカーやディーラーにとっても、最初のクレームや通報をキチンと精査することで、大きな事故を防ぐことにも繋がりますし、また適切な対応をとれば不具合があったとしても信頼性やブランドイメージを損ねることも少ないと思います。

そこで少し気になったのが、トヨタの初期通報からリコール対応までの経過時間です。国交省では、初期通報からリコール対応までを2カ月以内、2カ月超え〜4カ月以内、4カ月超え〜6カ月以内、6カ月超え〜8カ月以内、8カ月超え〜10カ月以内、10カ月超え〜12カ月以内、12カ月超え〜24カ月以内、24カ月超え〜48カ月以内、48カ月超えとに分け、それぞれのメーカー別に当てはまる件数を5年間の統計で公表しています。

すると、スズキ自動車が2カ月以内と2カ月超え〜4カ月以内の対応を合計すると5割を超え、三菱自動車が2カ月以内から4カ月〜6カ月以内に5割以上を対処し、ホンダも「〜8カ月以内」の合計で5割超えなのです。しかし、トヨタは少し遅く、12カ月超え〜24カ月以内・24カ月超え〜48カ月以内・48カ月超えの合計が5割を超えていて、「24カ月超え〜48カ月以内」での対応が全体の3割以上になっています。他のメーカーよりも製品ラインナップも多く、また販売台数も多いことからどうしても、時間がかかるのかもしれませんが、少しでも早くなれば一層、トヨタへの信頼感が増すと思うので頑張って欲しいですね。

かつてアメリカで起きた「トヨタ・バッシング」とリコール問題

最近では、エアバッグの問題が大きく取り上げられていましたが、リコール問題としては当時、最大規模と言われた2009年〜2010年のアメリカでのトヨタリコール問題を少し掘り下げてみましょう。

アメリカでのリコール対応の問題でしたが、連日、日本でも大きく取り上げられましたし、豊田章男社長がアメリカ議会の公聴会で聴取されるなどの模様が繰り返し報道されたので、ご記憶の方も多いと思います。

概要は、アメリカで走行中のトヨタ車が、マットとアクセルペダルの引っ掛かりが原因で、ドライバーが意図しないまま暴走し、死亡事故を起こしてしまった。という不具合を巡ってトヨタが行ったリコールと、それに機を合わせて、電子制御システムの不具合の疑いが浮かび上がり、一気にトヨタに対するバッシングとして日米だけでは無く、ヨーロッパや中国・韓国にも広がった事件です。

このリコール対応には、リコール対応としてのあり方と同時に、リコールに対する日米の考え方の違いなどもかいま見えるので取り上げてみたいと思います。

トヨタの「大規模リコール」の発端

日米のトヨタ関係者、ドライバーだけではなく、様々な人たちの注目を浴びた「トヨタ大規模リコール問題」は、2009年8月28日にレクサスES350がカリフォルニア州サンディエゴで起こした事故が発端と言われています。この事故では、レクサスES350が突然暴走して、4人が死亡が死亡しています。この事故は、その後に行われた、アメリカ運輸省の高速道路交通安全局(NHTSA)の安全調査報告によると、運転席の床に置かれたES350用ではない別のゴム製フロアマットが固定されておらず、そこにアクセルペダルが引っかかってしまいペダルが戻らなくなったことが原因と分かりました。

この事故の被害者は整備のため自家用車を近所のディーラーに預けていて、ES350は代車として受け取ったものだったそうです。そして、ES350のフロアマットの上にレクサスRX用のフロアマットを載せていたのだそうです。

事故後、「約1カ月」で行われたリコール

この事故に対してのトヨタの対応は日本流に考えれば、比較的早いものでした。約一ヶ月後の9月29日に「アクセルペダルがフロアマットに引っかかる恐れがある」とトヨタが発表し、購入者に対してマットの取り外しを呼びかけているのです。そして、10月5日には、この問題から380万台をリコールしています。また、不幸にして亡くなったご遺族などとの和解も翌年2010年の9月には成立していて、そのための和解金は1,000万ドルだったと言われています。

リコールの対象となった車種は事故を起こしたES350の同じ年代の車種だけではなく、カローラ、カムリ、アバロン、タコマ、プリウス、マトリックス、ヴェンザ、ハイランダー、タンドラ、レクサス・ES350、レクサス・IS250、レクサス・IS350と車種が多く、そして、古いものでは2004年式の車体を対象としていたものもありました。このうちの4車種は2010年になってリコール対象に加えられたものですが、2009年に行ったリコールだけで対象車は約426万台で、アクセルペダルの無償交換を行ったそうです。426万台と言えば、トヨタが全米で売る台数の4半期分相当ですから、大規模さが如実に表れた数字だと思います。でも、これでは終わらなかったのです。

リコールに繋がる欠陥は「5日以内に報告すべし」というアメリカ

まず、NHTSAは、その後3カ月にわたってアメリカ・トヨタとの交渉を行い、更に決定権のあるトヨタ本社に出向くべく2009年12月15日、ロナルド・メッドフォードNHTSA副局長代理を含む3人の局員来日します。

彼らは、愛知県豊田市のトヨタ本社で大勢の人達の前で米国でのリコール規則として、「リコールにつながる欠陥に対して5日以内の報告を求めている法律(DREAD法)に従う義務」について、とうとうと話をしたそうです。つまり、トヨタが行った1ヶ月後の対応では遅すぎると言ったのです。そして、更に別室で当時の横山常務(品質保証担当)が代表となった幹部数人とと面会し対応の遅さを指摘したそうです。コレに対して副社長の佐々木眞一(品質管理担当)から「既にフロアマット問題に対応していたので深い意味を感じなかった」と返事があり、NHTSAの不信感を買ってしまったと報道されています。また、更に、2009年1月19日に新任のNHTSA局長デービッド・ストリクランドを米トヨタ幹部が訪問した際、この幹部から「ペダルの不具合は、既に1年前から知っていた」と聞かされたとも報道されています。この2つの報道が本当ならば、豊田市で生じたNHTSAの不信感がアメリカ・トヨタの幹部によって怒りに変えわってしまったと言っても良いでしょう。

拡大するリコール車数、加熱する報道

こうした自体の中で、2010年1月から2月にかけての更に大規模リコールが行われます。2010年1月は北アメリカ、2月は日本でリコールが実施されるなど、全世界で700万台を超える車両がリコールの対象となったおそうです。この際、アメリカ・トヨタのアーブ・ミラー副社長から役員だった小金井勝彦宛に「アクセルペダルの機械的な欠陥を隠ぺいする時期は終わった」とのメールが送られたそうです。これに対して小金井氏からミラー氏に対して「問題の原因が確定していない以上、トヨタがアクセルペダルの欠陥について言及するべきではない」と冷静な対応を要求したとの報道があります。このリコール問題でマスコミが加熱していく中で、様々な考え方が出てきてしまったのかもしれません。

そして、トヨタはリコールだけではなく、生産中止にも追い込まれます。2010年1月21日に、それまでの焦点だったフロアマットに引っかかりアクセルペダルが戻りにくくなる事象とは別に、アクセルペダル自体がが元の位置に戻りにくくなる不具合が出る可能性があるとアメリカ国内で販売した「カローラ」や「カムリ」など計8車種をリコールしています。そして、1月26日にはアメリカとカナダで、この8車種を少なくとも1週間の販売生産の中止を発表しなくてはならなかったのです。

そして、自体はトヨタだけに留まらなくなります。2010年1月27日には、2009年11月に行われたリコールの対象車に、ヴォルツの同型車であるポンティアック・ヴァイブを含む5車種が追加リコールされ、2010年1月28日に中国でRAV4が、2010年1月29日にはヨーロッパでも8車種がリコールと世界中でトヨタのリコールが相次いでいきます。

10年前の水準にまで落ち込んだ売上台数

こうなると、当然のことですが販売、トヨタの売上にも直結する問題になってきます。2010年1月の販売台数は前月比で47%減と半分近くにまで落ち込んで、総売上数も9万8796台と10年ぶりに10万台を割り込んでしまうのです。更に、このリコールの規模や売上実績から、株価も1月25日からのわずか4日間で15%も下落してしまいます。この影響はグループ子会社の上場企業、関東自動車工業、デンソー、フタバ産業などの株価も落ち込んでしまいました。そのいぽう、この一連のリコールに掛かった費用は、総額で1,000億円にも上ったと報道されています。トヨタほどの企業でも、まさに屋台骨を揺るがすような事態に陥っていたのです。

トヨタの隙を突くライバルの追い上げ

この状況はライバルの自動車メーカーにとっては、ある種「かっこうのネガティブキャンペーン」になっていたのかもしれません。ゼネラルモーターズ(GM)は、2010年1月27日、トヨタ車からGM車に乗り換えを促す「キャッシュバック」などのキャンペーンをを発表しています。その中には、最大5年間のゼロ金利ローン、GM車購入代金の一部補助などが含まれています。当時の報道でも、「ライバルのトヨタ車を狙い撃ちにして買い替えを促進し、シェアを奪う戦術」といわれるほどでした。

また、韓国のヒュンダイ自動車も2010年1月29日にGMと同じくアメリカでトヨタ自動車からの買い替えを促そうと、トヨタ車からヒュンダイ車に乗り換えれば1000ドル(約9万円)のキャッシュバックをすると発表しています。

このようにトヨタへの風当たりは日増しに強くなっていく状況でした。

暴走の原因は「電子制御システム」だと疑いだしたアメリカ運輸省

更に、逆風は強まります。アメリカ合衆国議会は2010年1月28日、「監督・調査委員会」を設置して公聴会を開くと発表し、トヨタアメリカ法人とNHTSAに情報開示を求めて公聴会への召喚状を送付した。そして、この監督・調査委員会の委員長は事件の深刻さを懸念して「トヨタ車は過去10年間で事故により19名の死者、2000人近くのけが人が出ている。他自動車メーカーと比べてもほぼ2倍になる」という声明をだしています。

これに呼応するように、トヨタはアクセルペダルに関するリコール対象車両について、どのように改善のための措置を施すのかという内容を2010年2月1日に発表し、合わせて北アメリカにある5工場を1週間休止することを決定しています。すると、翌日の2010年2月2日に、アメリカ合衆国運輸省から、リコール対象車の不具合は「エンジンの電子スロットル制御システムが原因の可能性がある」との声明が発表されます。そして、「電波の干渉が、意図しない加速を引き起こす可能性がある」とも指摘しています。つまり、外部からの電波によってエンジンが勝手に回転数を上げてしまう可能性があるということですね。

そして、更に翌日には有名人が参戦してくるのです。スティーブ・ジョブズと共にアップルを創業したスティーブ・ウォズニアックが、「プリウスを運転中、クルーズコントロールを使用した高速道路巡航をしていたら、アクセルに触れていないのに時速156kmに加速した」との経験談を発表したのです。この2010年モデルのプリウスはリコールの対象車ではないのですが、ウォズニアックはプリウスに搭載されたソフトウェアの問題だと主張した上、「トヨタもNHTSAも苦情に対して2ヶ月間何の返事しない」と述べ報道されています。

トヨタ社長、謝罪会見を行う

事態は、ついにアメリカ政府高官が乗り出す状況になります。2010年2月3日、アメリカ時間の夜、レイ・ラフッド運輸省長官から豊田章男社長に電話があり、「安全確保のための取組みを最優先するよう」要請があったのです。

2日後の2010年2月5日に豊田章男社長が謝罪会見を行います。この模様は日本だけではなく、アメリカ、更にはイギリスでもBBCが生中継をしています。この中で、豊田章男社長は「トヨタは絶対に失敗しない全能の存在だと思っていない」とも語っています。そして、2010年2月9日、アメリカ下院の監視・政府改革委員会が提示した質問状に対し、トヨタから「運転者が意図してない急加速が起きた際には、ブレーキをアクセルより優先させるシステム(ブレーキオーバーライド・システム)を2009年からカムリなどの5車種に搭載している上、更に2010年から順次大半のトヨタ車に搭載する予定である」との回答を提示しています。

「トヨタ・バッシング」に逆行するトヨタ擁護の意見が現れ始める

2010年2月15日、NHTSAは更に衝撃的な発表をします。2000年以降の急加速によってトヨタ車で34人もの方が命を落としたとしたのです。そして、翌日2月16日、リコールの遅れがあったのでは無いかと、アメリカ運輸省が調査を開始し、結果として調査の結果、1件1,460万ドルの制裁金を課しています。

その一方で、別の動きも出始めます。トヨタ自動車の生産工場があるケンタッキー、インディアナ、アラバマの3州と、工場の建設予定地となっているミシシッピ州の各州知事が、2010年2月に、このトヨタ騒動に対して「あまりにも不公平だ。トヨタは全米で17万2,000人もの雇用を生み出している米国で最も称賛されるべき企業の一つだ」という声明を発表したのです。こうして「トヨタ・バッシング」を批判したのです。更に、この問題に関する公聴会を開くアメリカ連邦議会下院の2委員会あてに4州の知事は連名で書簡を送り、公平な議論を行うよう求めてもいるのです。

また、同時にトヨタ・バッシング一辺倒だったメディアの中にも
・トヨタ自動車が米国で雇用を生み出して地域経済の活性化に貢献している
・破綻したGMの株を持つアメリカ政府の意向(国策)が働いているのではないかという説
・オバマ政権への批判をかわすためのスケープゴートとしてのトヨタ・バッシングと訴訟
と言ったトヨタを擁護する報道が出始めてきます。

しかし、2月26日、下院監視・政府改革委員会は、トヨタ訴訟に携わっている弁護士ビラー氏が提出した証拠書類に基づいて、トヨタが提出した証拠に計画的隠蔽の形跡(証拠)が発見されたと発表したのです。委員会は返答を3月12日までにするように稲葉社長に求めた。このビラー氏、2003年からトヨタの顧問弁護士だったのです。しかし、トヨタが社内情報開示を隠蔽したと2007年に契約を破棄し、翌2008年、トヨタから、機密保持契約違反として告訴されていた人物でした。しかも、2009年7月には、逆にビラー弁護士からはトヨタを恐喝や名誉毀損などで逆提訴している敵対関係だったのです。ケンタッキー州などの4知事の求めは届かなかったことになるのでしょう。

バッシングの中、露見した「やらせ」

この一連の騒ぎの中で、ライバルメーカーがトヨタの隙をつくことは当然ですが、様々な怪しい事態が発生してもいます。

2010年2月23日、米下院エネルギー商業委員会で開かれた公聴会で、南イリノイ大学のデビッド・ギルバート準教授がアクセルの電子制御に欠陥があると自身の実験結果をもとに証言しています。しかし、このギルバート準教授の実験は、のちに捏造実験であったことが発覚しているのです。ABCテレビは、以前、ニュース番組で、このギルバート准教授によるトヨタ車の急加速の再現実験を放送していました。しかし、ギルバート准教授の公聴会での証言から、それほど経っていない2010年3月、この再現実験がねつ造であったと報道したのです。放送した中でタコメーターが急激に上がる映像があったのですが、放送ではあたかも走行中にエンジン回転数が異常な上がり方をしたかの様に演出されていて、実際には、停止した状態でアクセルを踏み込んでいた映像をつなぎ合わせたものだというのです。いわゆる「やらせ」ですね。

この他にも様々な人物が取り沙汰されました。特にこのトヨタ・バッシングが問題として大きくなったのは、「急加速の原因はマットではなく、トヨタの電子制御スロットルシステム」だという主張にありました。マットならペダルを直すか、マットの改修だけで済みますし、目に見えます。しかし、電子制御は目にも見えないのですから、不安募らせる人も多かったのです。それに対して大きな反論が出されます。2月の松にミシガン大学教授ジェフリー・ライカー博士から、この問題が一部のメディアとある人物が「作った」騒動であって、トヨタの電子制御スロットルシステムに問題はないとしたのです。この見解は、少し遅れた段階ですが、2011年に米運輸省の調査で追認されています。

更に、2月に「プリウスが勝手に加速して156km/hも出てしまった」と言ったスティーブ・ウォズニアックも僅か1ヶ月後の3月7日「プリウスは色々なガジェット(電子製品)と同じくコンピューターが入っている。最近は何にでもコンピューターが入っている。つまり何でも故障する可能性がある」と言い、不調があれば再起動しようと語りました。しかも「トヨタのファンで、プリウスを9台持っている。コンピューターを使っていれば、細かいトラブルがあるのはみなさんご存じでしょう。私はトヨタを愛している。私はトヨタ車が安全でないとは思わないし、今後もトヨタ車を買い続けます」とまで言ったのです。

更に、2010年3月9日、ニューヨーク州でプリウスが暴走し衝突事故を起こしたのですが、3月18日、NHTSAによる調査結果、ブレーキは使われず、スロットルは全開だったことが判明し、一連のトヨタ・リコール問題に含まれる不具合かと注目を浴びながらも、3月22日、米ニューヨーク州の警察当局から車両には異常が認められず、ドライバーの運転操作ミスだと発表されます。また、同様の事故(?)が、幾つか報道されています。

濡れ衣だった「電子制御システム」への疑い

2010年7月、とうとうトヨタ・バッシングに対する一つの結論が出されます。

2010年7月13日、米運輸省は、アクセルペダルとフロアマットの欠陥の疑いは残る。だが、大半の事故が起きた時にスロットルは全開でブレーキは使われていなかった。つまりブレーキとアクセルの踏み間違いという人為的なミスが事故の原因だと発表したのです。更に、8月11日、NHTSAは、トヨタ車の電子制御システムに異常はなく、事故のほとんどが運転者の人為的なミスによるものであると報告したのです。来日し、怒りを持ち帰ったNHTSAでしたが、フロアマット以外に客観的な証拠はついに見つからなかったのです。そして、翌年2011年2月8日、アメリカ運輸省はトヨタ車の電子制御システムに欠陥はなかったとの調査結果を発表します。そして豊田章男社長に電話をしたラフード長官も 「NHTSA 、そして米航空宇宙局(NASA)による10ヶ月の調査結果で、電子制御システムにはいかなる問題点も見つからなかった。NASAのエンジニアによれば急発進が発生した自動車9台について電子制御装置に異常現象は見られず、NHTSAの調査でも加速ペダルと運転席フロアマットの欠陥による問題は確認されたものの、急発進事故の殆どが運転手のミスと確認された」と発表したのでした。

この長官発表は決定的な方向付けをしたようです。翌日の2月9日に、トヨタの株価は2010年1月の水準を回復し、トヨタ・バッシングの記事を書いていたワシントン・ポスト紙も同じ2月9日の社説で「米議会による一連の『トヨタたたき』は、ニュースの見出しを狙った政治的に引き起こされたヒステリーだった」とアメリカ側の対応を批判しています。また同時に「またトヨタ社は、世論の袋だたきに遭うことが判っているため、経営陣が顧客批判をすることは不可能だった」と同情的な論評すら加えたのです。

疑いは晴れても、負ったキズは深かった

それでもトヨタが負ったキズは決して浅くはありません。2012年12月に、トヨタはカリフォルニアの地方裁判所での集団訴訟では、原告と11〜14億ドルの支払いで和解、ほかも合わせ総費用は約30億ドルにのぼると推計されているそうです。

また、2014年3月19日、アメリカ司法省とトヨタは、リコール問題の最終的な和解に合意していて、トヨタ側は、12億ドルを和解金の支払いとリコールに対する約束事項の遵守を負うこととなった。実は、この一連の対応は、他社がおこなった大規模リコールともタイミングが重なったこともあって、アメリカにおけるリコール問題処理の模範になるものとして注目されてもいるのです。

リコールが多ければ、買ってはいけない?

この一連の流れを見ていて感じたことの一つは、リコールのまっただ中では、リコール対象車種だけではなく、トヨタ車の価値、つまり下取り価格にも影響があったのではないかということです。ここまでのバッシングが行われ、しかも電子制御システムというブラックボックスが疑われていたのですから、トヨタ車オーナーにとっては気が気でなかっただろう思うのです。

しかし、終わってみて感じたことは、少し違います。この無償修理を経ることで、トヨタがお得意の「KAIZEN」に繋げたのではないかということです。まだ残念ながら、初期通報からリコールが実施されるまでの期間は長いですが、この件で支払ったトヨタの代償は決して小さくないのです。それだけに同じ失敗を繰り返さない努力が見えるところ、そして見えないところに張り巡らされていると思うのです。

まとめ

「トヨタが大規模リコール」とニュースや新聞で見ると、とてもインパクトが強く、不安になる人も多いのでは無いでしょうか。確かに自動車に何らかの構造的な不具合があるのですから、安全性を確保して安心ドライブをするためには、大きな問題です。ですが、逆に安全性を確保するための無償修理を早めに受けて、また愛車と楽しいドライブに出かけるためには必要な処置だと言えるでしょう。

トヨタ車には多くのユーザーがいますし、リコールの必要な不具合のある製品をお願いしたいですが、一方では、不具合があれば積極的に改善し、必要なリコール対応をすることでトヨタへの信頼性を高めて欲しいと思います。また、トヨタに限らずドライバーも不具合を感じたら積極的に、メーカーやディーラーに相談して、より精度の高い製品づくりに参加できるような仕組みができあがると良いですね。