クラッチの構造を理解してトラブル回避&ファントゥドライブ

クラッチを踏み込んで、ギヤをシフトチェンジして、クラッチを放して…というのがマニュアルトランスミッションの一連の操作ですが、なぜクラッチを踏むとギヤチェンジができるんでしょうね。せっかくですから、クラッチの仕組みを理解しておきましょう。わからないまま使っているよりも効率的に使えますし、いたわることも可能です。

クラッチって何?

クラッチの仕組みについて学ぶ前に、まずはクラッチとは何かを考えてみましょう。マニュアルトランスミッションでは、ギヤチェンジをする前にクラッチを踏み込みますよね。シフトアップするときも、シフトダウンするときも。それから停車するとき。さらに発進するときにも、ギヤを1速に入れる前にクラッチを踏み込みます。つまり、ギヤをシフトチェンジするときに、必ずクラッチを踏みます。
クラッチを踏み込むとなにが起きるのかは、自動車学校で習いましたね(A/T限定免許の方、ごめんなさい)。エンジンからトランスミッションに伝わる動力が切れるようにできています。ですから、“クラッチを切る”という表現をする人もいますね。
クラッチは、エンジンとトランスミッションの間でエンジンの動力を断続するものです。



クラッチの仕組み

さて、ではクラッチはどうやってエンジンの動力を断続しているのでしょう。ペダルを踏み込んだときに、その向こう側では一体なにが起きているのでしょうか。

構成部品

ごくごく一般的なクラッチはこんな部品から成り立っています。もちろん車種によって姿形が違うこともありますが、すべてを拾い上げているとキリがありませんので、1番多いスタイルで説明します。
下に伏せるように置いてあるのは、“クラッチカバー”と呼ばれる部品です。この中には、“プレッシャープレート”と、それを押しつける仕事をする“ダイアフラムスプリング”が仕込んであります。
そして、クラッチカバーに寄りかかっている円盤が“クラッチディスク”です。そしてもうひとつ、クラッチカバーの上に乗っているのが“レリーズベアリング”です。
この3つの部品が一列に重なって動力を伝える、断ち切るを行っています。

※この“レリーズベアリング”という名前、日本でしか通用しませんのでご注意ください。この“レリーズ”ですが、英語のスペルは“release”です。
もうおわかりですね。本当は“リリース”なのですが、初めて受け取った日本人は“レリーズ”と読んでしまったようですね。

セッティング

出典: http://www.geocities.co.jp/MotorCity/1422/mission.htm
では、クラッチの作動メカニズムを見てみましょう。まずは構成部品がどのように配置されているかを説明します。
1番左にあるのは“フライホイール”です。これは、エンジンのクランクシャフトに固定されていますので、エンジンに合わせて回転します。
2番目はクラッチディスクです。外周には“フェーシング”と呼ばれる摩擦力の強い材料が貼り付けてあります。このフェーシングが、フライホイールに面接触します。また、クラッチディスクの中心には穴が空いていて、その穴には“スプライン(複数の切り溝)”が付いています。この絵では見にくいですが、“構成部品”の項の画像だとわかりますね。
3番目はプレッシャープレートです。これは、クラッチディスクのフェーシングをフライホイールに押しつける役割を担っています。ですから“プレッシャープレート”なんです。
4番目はダイアフラムスプリングです。傾斜の少ない円錐型の板状スプリングで、高剛性の鋼材でできています。このスプリングの力で、プレッシャープレートを押しつけています。
1番右にあるのがクラッチカバーです。これは、ダイアフラムスプリングとプレッシャープレートを固定しています。クラッチカバー自体は、フライホイールに固定されています。
この状態では、クラッチディスクはプレッシャープレートによってフライホイールにしっかりと押しつけられています。

作動

出典: http://www.weblio.jp/content/%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%81.
この状態から“クラッチを切る”操作を行うと何が起きるのか? ですよね。
構成部品の中でまだ登場していないものがあります。“レリーズベアリング”です。レリーズベアリングは、ダイアフラムスプリングの先端に配置されますが、普段は離れています。
ドライバーがクラッチペダルを踏み込むと、レリーズベアリングがダイアフラムスプリングを押し込みます。するとダイアフラムスプリングはクラッチカバーの内側を支点にして反り返ります。
その結果、プレッシャープレートは浮き上がり、クラッチディスクをフライホイールに押しつける力が失われるためクラッチディスクは自由になれる仕組みです。

クラッチディスクの中心の穴には、トランスミッションに動力を伝えるための“メインドライブシャフト”が挿入されていて、スプラインでクラッチディスクと勘合しています。
クラッチディスクがフライホイールに押しつけられているときは、エンジンの動力がトランスミッションに伝わりますが、クラッチディスクが自由になるとエンジンの動力がトランスミッションに伝わらなくなる仕組みです。

バリエーション

出典: https://www.exedy-aftermarket.com/ja/default/material/show/id/3/clutch.html
メカニック時代にはたくさんのクラッチ交換作業をしましたが、何度か目にしたのが“ツインプレート”です。
重たい車を元気に走らせるためには、エンジンの出力も大きくしなければなりませんよね。でも、高出力のエンジンパワーを重たい車体に伝えるクラッチの負担は増大してしまいます。そこで、摩擦力を増やすためにクラッチディスクを2枚にした仕様です。
積載量の多いトラックに多く見られますが、フェラーリのトランスバートトランスミッションモデル(縦置きエンジン車)にも使われています。フェラーリテスタロッサやF40、348tb、ランボルギーニガヤルドのクラッチもツインプレートだったと記憶しています。

最新技術

出典: http://news.mynavi.jp/news/2009/02/19/026/
これは“デュアルクラッチ”とよばれるクラッチ機構を搭載したトランスミッションのカット図です。今まで話してきたようなクラッチとは別の用途で使われるのですが、クラッチの仲間ですので紹介します。
オートマチックトランスミッションが普及してから、その技術はどんどん進化しています。もともとオートマチックトランスミッションと言えばクラッチの代わりに“トルクコンバータ”と呼ばれる部品を用いた“遊星ギア常時噛み合い型”のトランスミッションでした。
そこへ彗星のごとく登場したのが“”CVT”でした。スクーター用に開発された無段変速機で、大きさの変化する2つのプーリーをベルトでつないだ構造になっています。CTVの場合、クラッチに相当する仕事はトルクコンバータを用いたものと電磁クラッチを用いたものがありました。
ただ、CVTは大きなトルクに対応出来ず大排気量エンジンには不向きで、遊星ギア型とともに伝達ロスも少なくないため万能のトランスミッションではありません。
エコ思考が高まる中、燃費向上に向けて伝達ロス解決が急務になったこともあり、欧州を中心にマニュアルトランスミッションのクラッチ機構を自動化した機種が登場してきました。
クラッチを切り、ギヤをシフトし、クラッチをつなぐ。この動作を車が自動で行うことでオートマチックトランスミッションとする方法です。
フェラーリのF1システムやアルファロメオのセレスピードがメジャーですね。わたしが以前乗っていたプジョー1007にも、同じ構造のトランスミッションが使われていました。
なかなか優秀なシステムでしたが、大きな問題もありました。クラッチを切ってギヤをシフトチェンジしてクラッチをつなぐまでに時間がかかり、その間に車速が落ちてしまいます。クラッチをつないだ頃には車速とギヤ比にラグが生まれてギクシャクしてしまうのです。
“オートマのように乗れます!”と言われて購入したユーザーから多くの批判を浴びたのでした。ですが、燃費向上のお題目と、専用のトランスミッションを開発する必要がない(既存のマニュアルトランスミッションを使い回せる)というメリットがメーカーにとって魅力的だったのでしょう。このギクシャクを改善する試行錯誤が繰り広げられたのです。

このデュアルクラッチシステムは、メーカーごとに呼び名は違いますが、2組のクラッチを使っているシステムのことで、“走行中に次のシフトチェンジを済ませておく”という荒技が可能なのです。
正直、初めて知ったときの驚きと初めて運転したときの衝撃は凄かったです。“よくこんな事を考えたものだ”と感心しきりでしたね。
理論的には、1・3・5速用のクラッチと、2・4速用(車種によっては6速も)のクラッチを用意して、それぞれのギヤシフトを走行中に済ませておいてバトンタッチするという手法です。
まだわかりにくいので、実際の動作に合わせて説明しますね。
便宜上、1・3・5速用のクラッチをA、2・4速用のクラッチをBとします。停車した状態では、1速に入った状態でAクラッチを切っています。アクセルを踏み込むと、上手に半クラッチを使いながら発進します。1速で走行中にBクラッチを切り、2速にシフトしますが、この時はまだ1速ギヤを使って走行しています。2速に切り替えるタイミングがやってきたら、Aクラッチを切ると同時にBクラッチをつなぐのです。2速走行に切り替わったら、すでにAクラッチは切れていますので3速にシフトしておきます。3速に切り替えるタイミングでBクラッチを切ると同時にAクラッチを繋ぎます。
わかりますか?この動作なら、動力の切れ間無くシフトアップしながら加速できるって寸法です。
欧州車では、フェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェ、アウディ、BMW、メルセデス・ベンツ、ボルボ、フィアットグループ、ルノーなど、実に多くのメーカーが採用しています。
日本でも採用例が増え、日産、三菱、ホンダが採用しています。三菱ふそうではトラックにも採用しています。

バイク(オートバイ)のクラッチ

スポーツバイクにもマニュアルトランスミッションが使われていますので、もちろんクラッチが存在します。

湿式多板クラッチ

出典: http://www.virginducati.com/school/qa01/
オートバイのクラッチとしてはもっともポピュラーな型式です。クラッチのパーツ一式がトランスミッションケースの中に仕舞われています。ケースの中に格納することで作動音を抑えるとともに、クラッチディスクにエンジンオイルを纏わせることで、シフトショックを吸収させています。
オイルが付いたら滑っちゃうんじゃないの? って思われますが、実際のところ滑ります。その滑りを利用して半クラッチを容易に発生させているのですが、動力を伝達しにくくなってしまうため多板式にして力を伝える容量を増やしています。 出典: http://oono.cbiz.co.jp/mnt/mnt-kuratti.htm
外向きに歯が出ているクラッチプレートと内向きに歯が出ているフリクションプレートを交互に重ね合わせてプレッシャープレートで押さえつけます。
フリクションプレートの内向きの歯は、“クラッチボス”と呼ばれるエンジンと連結している部品に勘合しています。クラッチディスクの外向きの歯は、“クラッチバスケット”と呼ばれるトランスミッションと連結している部品に勘合しています。
クラッチプレートとフリクションプレートが押しつけられて一体になっている間は、エンジンの動力がトランスミッションへ伝わりますが、プレッシャープレートの押しつける力が無くなるとクラッチプレートとフリクションプレートは自由に動けるようになり動力は伝わらなくなります。

乾式多板クラッチ

出典: http://www.virginducati.com/school/qa01/
イタリアのドゥカティが代表的ですが、長らく乾式クラッチを採用していました。湿式クラッチは騒音面やクラッチミートの容易さが魅力なのですが、唯一のデメリットがあるのです。それは、オイルによる滑りに対応するためにディスクの枚数を増やさなければならず、大型になり重量もふえてしまう事です。
ドゥカティは小型軽量を目指して、乾式を選択していたのです。他メーカーでも、一部のスポーツモデル(レース用車輌のベースモデルとなるホモロゲーションモデルなど)では、乾式クラッチを採用するケースもありました。
ただ2005年頃からは、ドゥカティも湿式クラッチを採用するようになりました。これには2つの要因があって、ひとつは乾式クラッチの作動音が騒音規制をクリアできなくなったことです。
乾式多板クラッチは、アイドリング時に“カラカラ”と特有の音を発します。防水と騒音対策としてカバーはあるのですが、それでも騒音規制値をオーバーしてしまうことがあるのです。
もうひとつは“バックトルクリミッター”の採用です。
ドゥカティは2気筒エンジンですので、エンジンブレーキの効きが良い部類です。不用意にシフトダウンすると、リヤタイヤがスリップもしくはホッピングしてしまいます。それを解消してくれるのがバックトルクリミッターです。
乾式でも採用しているモデルはあるのですが、頻繁なメンテナンスが必要でした。クラッチごと湿式にしてしまえばメンテナンスフリーにできるのです。
こうした背景から、最近のモデルでは湿式に変更されています。



半クラッチとは?

なんだか不思議な言葉ですよね、“半クラッチ”。クラッチの半分ってどういう意味なんでしょう? 言葉の意味は一旦置いておいて、“つながり掛けた状態”だと理解してください。
上の“作動”のところでお話しましたが、プレッシャープレートがクラッチディスクから離れている=クラッチが切れている(動力が伝わらない)状態です。逆に、プレッシャープレートがクラッチディスクを押さえつけている=クラッチがつながっている(動力が伝わる)状態です。
半クラッチは、この中間の状態を言います。
停車している車に、突然エンジンの動力を100%伝えるとどうなるでしょう? 選択したギヤにもよりますが、車速がゼロだったものが突然時速10km/h以上になることはあり得ませんので、残念ながらエンジンは停止(エンスト)してしまいます。仮に、エンストせずにクラッチを繋ぐことが出来たとすれば、追突されるのと同等のとんでもない衝撃が発生します。
発進のたびにそんな状況になっていては堪ったもんじゃありませんよね。
そこで、クラッチを繋ぐ操作をゆっくりにすることで、クラッチディスクの摩擦力を利用して少しずつ動力が伝わる量を増やしていくのです。すると車はゆっくりと動きだし、スムーズに速度に乗ることができるのです。
この“滑るでもなく完全につながるでもなく半分つながった状態”を半クラッチと呼びます。

半クラッチを上手に使えるようになると、スムーズに運転できるようになります。発進時にはギクシャクしなくなりますし、ギヤチェンジの際でも回転速度差によるピッチング(車体が上下に動くこと)が低減できます。
さらに応用すると、坂道発進もスムーズに行うことができるようになります。慣れてくると、坂道でも半クラッチだけで停車していられるようになります。そのままクラッチを繋ぎながらアクセルを少しずつ踏み込めば、後ろへ下がることなく坂道発進ができるようになります。

クラッチが滑る?

“滑る”と言っても、画像のように“すってんころりん”って訳ではありません。
上述したとおり、クラッチ機構はクラッチディスクに貼ってあるフェーシングの摩擦力によって成り立っています。フライホイールとプレッシャープレートに挟み込まれたクラッチディスクがお互いをつなぎ合わせています。摩擦力でつなぎ合わせていると言うことは、摩耗するということでもあります。
つなぎ合わせる相手同士(エンジンとトランスミッション)の速度が同程度の場合は、クラッチディスクのフェーシングへの負担はほとんどありません。ですが加速・減速時や、さきほどの半クラッチの最中には、フェーシングは摩耗してしまいます。
摩耗が進んでいくと、最後は摩擦力が足りなくなってしまい、エンジンとトランスミッションとをつなぎ合わせることが出来なくなってしまいます。これが“クラッチが滑る”状態です。
クラッチの滑りがひどくなると、動力が伝わらず走ることが出来なくなってしまいますので、街中で立ち往生することになってしまいます。
そうなる前に、初期症状のうちに発見しましょう。
滑り始める兆候がわかると発見しやすいですよね。
先ほど書いた“つなぎ合わせるもの同士の速度が同程度だと負担が少ない”というのがヒントです。滑り始めたクラッチでも、負担が少なければ症状を体感することはほとんどありません。
逆に、多めの負担を与えると症状が出やすいということです。
エンジンとトランスミッションの速度差が大きいほうが症状が体感しやすいので、クラッチの滑りが疑わしい時は試してみましょう。
車速が低い時に1つ上のギヤを選んで見てください。ギクシャクするほどでは他に悪影響が出てしまいますので気をつけてください。普段2速で走る速度の時に3速に入れてみる、ということです。その状態で加速しようとしたときに、車速が上がらずにエンジン回転だけが上がったら要注意です。
普通に走行していてアクセルを開けたときに、同じようにエンジン回転ばかりが上がって速度が付いてこない場合も同様に滑りを疑うべきです。

クラッチ交換

滑り始めたクラッチは交換する以外に直す方法がありません。必要以上に半クラッチを多用したり、クラッチに負担がかかるような走行はクラッチの寿命を縮めることになりますので、出来るだけ控えましょう。 クラッチは、エンジンとトランスミッションの間にいますから、交換するためにはエンジンとトランスミッションを分離する必要があります。
残念ながら個人でできる作業ではありませんので、プロに任せてください。
FRが主流だった頃は、“ガレージで自分でやってみた”という声もきいたことがありますが、FR車の場合はデファレンシャルギアが独立していますので、比較的トランスミッションが軽量なんです。
FF車はデファレンシャルギアもトランスミッションケースの中に収まっていますので、すいぶん重量がかさみます。チャレンジしてみたものの大けがをしてしまっては意味がありませんよね。
よしんばトランスミッションを分離できたとしても、さらなるハードルが待っています。
クラッチディスクの中心には、トランスミッションから出ているメインドライブシャフトと言う部品が刺さります。つまりクラッチディスクとカバーを取り付ける際には、しっかりと位置出しをしなければなりません。そのためには専用ツールが必要です。
エンジンとトランスミッションを分離すると、使い古したクラッチフェーシングのすり減った粉状のゴミがたくさん出ます。これは人体に悪い影響を及ぼしますので、しかるべき処理をしなければなりません。
クラッチカバーを取り付ける際に、複数の取り付けボルトを均一の力で締め付ける必要があります。
以上のような理由から、専門の整備工場での作業をオススメします。
それから、必ずクラッチディスク・クラッチカバー・レリーズベアリングの3点セットで交換しましょう。基本的にすり減るのはクラッチディスクのみですが、プレッシャープレートが熱によって歪むことはよくあることです。レリーズベアリングも永久的に使えるものではありませんので、異音などの症状が出ていなくても交換しましょう。交換後すぐにベアリングから異音が出たら、同じ作業をする必要がありますので、完全な二度手間になります。
中には、使いすぎてしまったためにフェーシングを止めているリベットの頭がフライホイールを傷つけているケースも見られます。
軽症の場合は研磨で対処出来ることもありますが、重傷の場合はフライホイールも交換しなければなりません。このような判断は素人にはハードルが高すぎますので、それも含めてプロに任せるべきだと思います。

“クラッチ蹴り”って?

“クラッチ蹴り”ってご存知ですか?
これは、ドライビングテクニックのひとつ“ドリフト”を行う際のテクニックのひとつです。私の記憶が確かなら、“ドリフトの神”土屋圭一氏が編み出した技だったと思います。
もともとは、非力な車輌でタイトコーナーを速く抜けるためのテクニックなんです。エンジンパワーが少ない車の場合、ハンドルを切るとその抵抗にパワーを食われてしまい、エンジン回転が下がってしまいます。“ステアリングブレーキ”と呼ばれる現象です。
土屋氏は、これをクラッチペダルを蹴り込むという荒技でしのいだのでした。おかげでエンジン回転を高くキープすることができるため、コーナー脱出時の加速が速くなるというわけですね。
アクセルを踏んだままクラッチをごく僅かな時間(といよりも瞬間的)だけ切れた状態にすると、エンジンの動力がトランスミッションに伝わらなくなります。つまり、エンジンにとっては負荷が無くなるわけですから、エンジン回転は急上昇します。
これを利用して、コーナリング中に落ち込むエンジン回転を復活させて、脱出スピードを上げようという技です。
この“瞬間的に”がとても重要なんです。長い時間クラッチを切っていると、コーナリング中の車速が落ちてしまうからです。脱出速度を上げるために現在の速度が落ちてしまっては本末転倒というものです。動力伝達をほとんど損なわずにエンジン回転を復活させるためには、ほんの一瞬でなくてはなりません。

ドリフトへの応用

出典: http://www.d1gp.co.jp/03_sche/gp2015/gp1505/gp1505_repo.html
ドリフトはご存知ですか? 
FR車でしか使えない技ですが、後輪をスピンさせた状態でコーナーを抜けるテクニックです。コーナーに侵入する際に、後輪をスリップさせて車体をコーナー出口に向けておく(おしりを出す)ことで、コーナー脱出後の加速を速くする技術です。
後輪をスピンさせるためには何かしらのきっかけが必要です。一般的には“ハンドルを一瞬逆に切る”というのが王道です。他には“サイドブレーキを一瞬引く”というのもよく使われます。
ハンドルを逆に切る“カウンターステア”では、小さく車体が回転しますから“前進する”という行為に対して僅かにロスが発生します。
サイドブレーキも同様で、僅かな時間とはいえブレーキを掛けるのはロスですよね。
そんなわけで、ドリフトのきっかけにクラッチ蹴りが用いられるようになったようです。一瞬でエンジン回転が上がり、そのままクラッチがつながればタイヤはスピンを始めます。あとはカウンターステアで体勢を調節しながらコーナー途中までいけば、すでに車体はコーナー出口を向いていますからアクセル全開にするだけというわけですね。

大丈夫なの?

と聞かれれば答えは“ノー”です。クラッチの構造から原理、作動までお話しましたからおわかりですよね。クラッチ蹴りは、とてつもなくクラッチを消耗するはずです。走行中に突然エンジン回転を上げられるわけですから、クラッチに掛かる負担はとんでもないものです。1レースごとにクラッチ交換をするようなレースカーならまだしも、ふだん使いのマイカーでは頻繁にクラッチメンテナンスもできません。できるだけいたわる走りにつとめましょう。

クラッチ強化

出典: http://osgiken.co.jp/pro_streetmaster/lineup.html
エンジンチューニングなどにより、エンジン出力が向上すると、クラッチ容量が足らずに滑ることがあります。向上したエンジン出力を余すところ無くトランスミッションに伝えるためには、クラッチ自体を強化する必要があります。
方法は大まかに分けて3種類あります。
1つ目はクラッチフェーシングの材質を変更することです。一般的には、樹脂ベースに銅や鉛などのメタル配合材、ゴム配合材、特殊紙質配合材などを混ぜ合わせて熱プレスによって圧縮形成したものが使われています。
これを金属配合率を上げるもしくは金属素材に変更するなどの方法です。最近ではカーボン素材が使われることもあります。
摩擦係数が格段に上がりますので、エンジンをパワーアップしても滑ることなく伝えることができるようになります。
2つ目はプレッシャープレートを押しつける力を上げる方法です。ダイアフラムスプリングの反力を上げることが多いのですが、スペース上の問題がクリアできれば構造自体を変更してしまうケースもあります。
3つ目はクラッチディスクのフェーシングの面積を増やす方法です。具体的には枚数を増やすことですね。クラッチの仕組みの中のバリエーションに書きましたが、ツインプレートにできればクラッチ容量を増やすことが可能です。

いずれの方法にもデメリットが存在しますので注意が必要です。
クラッチディスクをメタルタイプに交換した場合、滑りにくい素材にした分だけ半クラッチが使いにくくなります。またつながり方が急なので、動力を受け取る側の負担が増えて消耗を早めることになります。
スプリングの反力を高める方法では、強くなったスプリングを跳ね返すわけですからクラッチを踏む力も余計に必要になります。
ツインプレート化が1番負担が少ないように思えますが、スペースの制約上、対応出来る車種は限られるでしょう。この場合もスプリングの力を増やさなければ容量が増えたクラッチを抑えきれませんので、結果的にクラッチが重くなります。

最後のまとめ

1989年、F1にセミオートマチックトランスミッションが登場しました。フェラーリのテクニカルディレクター、ジョン・バーナードのアイデアです。ステアリング上にあるスイッチを押すだけでシフトチェンジができる、夢のようなシステムでした。シフトチェンジをするのにハンドルから手を放さなくてもよくなりましたし、人がシフトチェンジするよりも速いのですから凄い技術です。それでも発進・停車するためにはクラッチが必要でした。
デュアルクラッチなどの最新技術にもクラッチは存在します。車には切っても切れない存在のクラッチについて、正しい知識をもって運転に臨むことで、より安全に快適に、効率的に使う事が出来るはずです。