インジェクションシステム それは燃料供給の大革命!

もはやインジェクションはほぼすべての車に採用されていますが、私がメカニックになったころは半々くらいでした。“軽もインジェクションの時代”という文句がCMで使われていたのを覚えています。当時はインジェクションを採用することが他と差別化できる要因になったんですね。名前は知っているけど中身はよくわからないシリーズですよね。

インジェクションって何でしょう?

元々は“注入する”とか“押し込む”という意味の言葉です。車の世界では、もちろん燃料供給装置を指します。私がメカニックになった1980年代後半は、まだまだキャブレターが主流で、“インジェクションを採用”というのが売り文句になる時代でした。
インジェクションシステムは、車よりも先に飛行機に採用されていた技術です。このあとで詳しく話しますが、キャブレターでの燃料供給は姿勢変化に弱く、戦闘機やアクロバット機には不向きなのです。そんな弱点を克服するためにインジェクションが開発されました。



歴史

燃料を噴射するという機構は、もともとはディーゼルエンジン用に開発された技術です。
ガソリンエンジンは、点火プラグで混合気に着火しますが、ディーゼルエンジンにはスパークプラグがありません。
空気を目一杯圧縮すると生まれる熱を利用して、燃料を自然着火させているのです。そのために、燃料を注入する量とタイミングはとてもシビアで、エンジン内でのピストン位置と連動して動くポンプが必須なのです。
後に、この燃料噴射装置をガソリン用に転換し、飛行機に搭載しました。第二次世界大戦以前、他国の戦闘機がキャブレターを搭載していた当時からドイツ空軍機は燃料噴射装置を採用していて、マイナスG環境でも燃料供給が途切れず空中戦で優位に立っていました。
日本やイタリアでもライセンス生産され、三菱重工業が開発した航空機用エンジン、“火星”の後期型や“金星”の末期型に採用されました。

ガソリンエンジンの乗用車としては、1954年のメルセデスベンツ300SLがインジェクションシステムを採用した最初の車だと言われています。

300SLについては、以下の記事をご参照ください。 “スポーツカー”と言われて思い浮かぶ車は人それぞれだと思いますが、私は真っ先にこの車が出てきます。レーシングカーとして製作された車ですが、その成功はアメリカの自動車ファンを虜にしたのでした。当時ニューヨークの輸入車ディーラーが1,000台の確定オーダーを条件にメルセデスを説得して市販車が誕生したという特異な車です。

インジェクションを語る前に

出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9C%A7%E5%90%B9%E3%81%8D
インジェクションシステムを語る上で避けては通れないものがあります。おわかりですよね? キャブレターです。インジェクション以前は、キャブレターで混合機をつくっていました。

キャブレターの原理

インジェクションは必要な量のガソリンを噴射しますが、キャブレターは正反対で“吸わせる”イメージです。
最近使わなくなりましたけど、霧吹きってありますよね。あれ、レバーを握り込むので押し出している感覚になるかもしれませんが、押し出しているのは空気だけです。ある程度の速度で空気が流れると、その周辺は負圧になります。そこへ小さな穴を空けてチューブをつないでおくと、チューブの先にある液体が吸い上げられるんです。
キャブレターは、この原理で動いています。
稼働中のエンジンは、吸気行程では空気を吸い込んでいますので、その吸気を使ってガソリンを吸わせるのです。
上の図の左側がエンジンで、右側がエアクリーナー、オレンジ色はガソリンです。ここで、“ある程度の速度”をつくり出すのが決めてなんです。
空気の流れる速度(流速と言います)が遅いと負圧が小さく、吸い出す力が生まれません。しっかりとガソリンを吸い出すためには、流速を上げる必要があります。では、流速を上げるにはどうすれば良いのでしょう?

キャブレターの要、ベンチュリ

大きな口を開けて息を吐くのと、小さく口をすぼめて息を吐くのでは、吐息のスピードがちがいますよね。まさにこれが答えです。
空気に限らず液体でも同じなのですが、流体の通り道を狭くすると、その狭い部分を通過した後の速度が上がります。これを“ベンチュリ効果”と呼びます。エンジンの排気量から逆算して最適なベンチュリサイズを設定することで十分な流速を確保し、必要量のガソリンを吸わせることが出来ます。
吸気ポート(吸気の通り道)を細くしてしまえば良いんじゃないの? っていう疑問が生まれるのですが、それでは都合が悪いことがあります。理想的な空燃費(空気と燃料の比率)は14.7:1と言われています。つまり、吸い出したガソリンの約15倍の空気と混ぜ合わせる必要があるのです。吸い出されたガソリンは霧状になっていますから、そのためにはそこそこ大きな空間が必要になります。
エンジンに入る手前に大きな空間を作り、さらにその手前で細く絞り込む。この組み合わせでないと良い混合気がつくりだせないのです。

キャブレターの限界

出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%96%E3%83%AC%E3%82%BF%E3%83%BC
ベンチュリサイズと吸い出される穴の大きさ(ジェットと呼ばれる部品で調節)を最適に調整できれば、キャブレターは理想的な混合気を作り出せるのですが、どうしても超えられない壁が2つありました。
1つ目は環境変化です。ガソリンと混ぜる空気の温度によって気化速度が変わりますし、そこに含まれる酸素量も違います。また、気圧の変化にもキャブレターは対応できません。季節ごとにベンチュリやジェットのサイズを変えることはできますが、走行中に変更することはできませんので、幅広い状況に対応できるように平均値で設定するしかないのです。“状況に合わせて理想的な”とはいきません。
2つ目は排気ガスの濃度です。とりわけアクセルオフの瞬間に、排気ガスが極端に濃くなってしまいます。アクセルオフにした瞬間はエンジン速度はまだ上がっているので、エンジンはたくさんの空気を吸い込もうとしますが、そこでアクセルを閉じると空気の入り口が閉ざされてしまうためガソリンばかりが吸われてしまうのです。結果、排気ガス中の未燃焼ガス濃度が高くなってしまうのです。
アクセルオフにしてもスロットルがすぐに閉じないようにする機構なども開発されましたが、最適とは言い難い状況でした。
環境変化に対する緻密なコントロールができないことと合わせて、キャブレターでは排気ガスのコントロールに限界があるのです。

キャブレターの弱点を克服する夢のシステム

出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%87%83%E6%96%99%E5%99%B4%E5%B0%84%E8%A3%85%E7%BD%AE
インジェクションでは燃料に圧力をかけて噴射するため、負圧に頼るキャブレターに比べて圧力の変動に左右されにくいのです。
キャブレターの弱点に対するインジェクションからの答えは、環境の変化を読み取りながら微調整する&アクセルオフ時は噴射を停める、でした。
負圧を利用して吸わせていると、“止まれ!”と言ってもとまりません。でも与えていれば止められるということですね。
モアパワーよりもクリーンさが求められる時代の変化に対して、インジェクションは必然だったと言えます。
また吸入経路を絞り込む必要がありませんので、吸気抵抗が発生しないことから、吸気に関わる負荷を低減できます。



インジェクションの変遷

先ほど、車への転用は1954年が初めてだという話をしましたね。すでに60年にわたる歴史があることになりますが、これまでの歩みはかんたんなものではありませんでした。
今でこそ車もバイクも装着率100%と言えますが、これまでの苦悩に満ちた歩みを時代別にご紹介します。

機械式(電子制御以前)

超初期の燃料噴射装置は、ディーゼルエンジン用のものをガソリンエンジンに転用したものでした。これからしばらくは機械式のインジェクションシステムのお話です。

クーゲルフィッシャー

ドイツのFAGが製造していた機械式の燃料ポンプです。基本構造とシステムは、ディーゼルエンジンの燃料噴射方式のままです。シリンダの数分の噴射ポンプが組み合わされていて、エンジンの動力で駆動して動かします。それぞれのシリンダの吸気ポートで吸気通路の一番燃焼室に近い、吸気バルブ直前に噴射します。
噴射量の制御もディーゼルエンジン用と同様で、アクセル開度に連動してポンプが加圧されて噴射量を増やす制御です。
1960年代から1970年代前半のポルシェ、メルセデス・ベンツ、BMW、プジョー、ランチアなどに使用された例があります。
初めて見たのはメルセデス・ベンツ280SLという車でしたが、ボンネットを開けてはじめの印象が“ディーゼルエンジンなの?”でした。
まさにディーゼルエンジン用の噴射ポンプそのものがそこにあったからです。 ※これ以降は、フューエルインジェクションを牽引してきたドイツボッシュ社のシステム名を使って話しますので、一部日本での一般呼称とリンクしないことがあるかもしれません。

Kジェトロニックシステム

出典: http://philippe.boursin.perso.sfr.fr/pdgdiag3.htm
1973年に登場した、ボッシュ独自のシステムです。ディーゼルエンジン用の燃料噴射装置の流用では機構構造が複雑で、重量、価格ともに一般的な量産車には向かないものでした。そこで、コスト低減のために開発されたのが“Kジェトロニック”です。
吸入空気に押されて動くフラップが燃料噴射量を制御するプランジャーにつながっていて、吸入空気量が増えると圧力が上がる構造になっています。電動の燃料ポンプで圧送されたガソリンをレギュレーターで制御し、燃料ライン内には常時5気圧程度の圧力がかかっています。ただし、この圧力ではインジェクターノズルは開きません。ここへ先ほどのプランジャーがさらに加圧することでノズルからガソリンが噴射される仕組みです。
クーゲルフィッシャー式のようにシリンダーごとに必要な時に噴射するのではなく、すべてのシリンダに対して連続的に燃料噴射を行ないます(そういう意味ではキャブレターに近いですね)。
構造が簡単で安価なこともあり、フォルクスワーゲン、アウディ、BMW、メルセデス・ベンツ、ロールス・ロイス、ベントレー、ロータス、フェラーリ、プジョー、ルノー、ボルボ、デロリアン、フォード・ヨーロッパなど、欧州の多くの自動車メーカーが採用しました。
ちなみに、名称の“K”は、ドイツ語で“連続的な、持続的な”を意味する“Kontinuierlich(
continuing)”に由来します。

KAジェトロニックシステム

Kジェトロニックシステムの発展版で、三元触媒(排気ガスに含まれる有害物質である炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物を除去する装置)装着車に対応したものです。排気ガス中の酸素濃度に応じて噴射量の制御する機能を追加しました。
“O2センサー”と呼ばれる酸素濃度を測定するセンサーの信号を、簡易なコンピュータで処理して燃料噴射量を調整します。
そいういう意味では“電子制御式”と呼べますが、燃料噴射制御の根幹はKジェトロニックのまま(フラップの動きが燃料噴射量を決めている)ですので、分類としては機械式の扱いです。
この時期の機械式インジェクションは、エンジンの出力アップを主な目的にしていたので、環境に対する排出ガス規制には適応できず電子制御式に取って代わられることになるのです。

電子化のはじまり

自動車をとりまく環境は変化し、モアパワーよりも環境への配慮(いわゆるエコ)が求められるようになります。というよりも、オイルショックによるガソリンの高騰から燃費の向上が求められたというべきかもしれません。

KEジェトロニックシステム

Kジェトロニックシステムのうち、吸入された空気量をフラップ式のエアフロセンサー(フラップの動いた量を電子信号に変換する装置)で計測するシステムで、その他は機械式のKジェトロニックシステムと変わりありません。
排気ガス対策としてO2センサーと三元触媒を装着して使用していました。

Dジェトロニックシステム

出典: http://www.indoproduk.com/produk_wallchart-d—jetronic.html#.VmkaU2SyNHw
エンジンが吸い込んだ空気の量を機械的に直接計測するのではなく、吸入経路内の空気圧を圧力センサーで計測したデータを用いるのが特徴です。吸入経路内の容積は一定ですから、内部の空気量が変われば圧力が変動するという理論です。
そこへ吸気温センサーで計測した吸入空気温度と、スロットル開度センサーからのスロットルバルブ開度の情報を補足データとして取り入れ、吸入された空気量を予測しています。O2センサーと三元触媒を装着することによって、排気ガス浄化システムの基礎になっています。
構造部品が少なくコストが抑えられるため、気筒数の少ない軽自動車や小型自動車用のインジェクションシステムとして広く利用されました。
名前の“D”は ドイツ語の“Druck(圧力)”に由来します。

Lジェトロニックシステム

出典: http://i2848.com.ne.kr/%C0%DA%B5%BF%C2%F7%C1%A4%BA%B8%B0%FC%B8%AE%B9%E6/bosch/l-jet.htm
吸入された空気量をエアクリーナーとスロットルボディの間に装着したエアフローセンサーで直接計測することで、吸入空気量を基本データとして燃料噴射量を決定するシステムです。
初期にはフラップ式エアフローメーターが使われていましたが、吸入空気の抵抗になってしまうので、中期以降はホットワイヤー式やカルマン渦式のエアフローセンサーが採用されるようになりました。
吸入空気の脈動による計測誤差が少ないので、気筒数の多いエンジンには圧力センサーよりも使い勝手がよいシステムです。また、吸入空気を過給するターボチャージャーやスーパーチャージャーを装着したエンジンにも使えます。
排出ガス浄化に三元触媒が用いられるようになり、O2センサーを用いたフィードバック制御(排気ガスの濃度から噴射料を補正する制御)が必要になった時期から急速に普及しました。
名前のL はエアフローセンサーのドイツ語 Luftmengenmesser に由来します。

※フラップ式:吸入空気がフラップを押す構造で、フラップの動いた角度を電子信号に変換します。
ホットワイヤー式:吸気管内に温度によって電気抵抗が変わる針金を置き、その針金に電気を流して加熱し一定温度に保つようにします。空気が多く流れるほど針金が良く冷されるので針金を一定温度に保つのに必要な電流値も変わります。この電流値を測定することで空気量を算出します。
カルマン渦流式:空気の流れの中に障害物をおくとその後ろに渦が発生します。渦の数は空気の流れが速いほど多くなる現象を利用して空気量を算出します。

現代のインジェクションシステム

上に挙げたシステムを基本に、さらに補足制御を加えたものが利用されています。現代の技術では、エンジンの状況を把握するために、以下の情報を収集しています。
1.吸入空気量
2.吸入空気温度
3.燃焼室温度
4.エンジン回転速度
5.エンジン回転角度
6.排気ガス濃度
7.燃焼速度
それぞれ使用するセンサーの種類は、エンジンの形式や用途などによって変更されますが、基本的にはこれだけの情報が集まれば理想的な燃料噴射料を算出できるとされています。
もちろん、これを応用して各社進化させているのは言うまでもありません。
例えば、三元触媒の前後にO2センサーを取り付けることで、触媒の働きが正常かどうかをモニターできますよね。
エンジンの回転速度を測るセンサーも、フライホイールを測定するのが一般的でした。ですが、フライホイールではそれぞれのシリンダのピストンの位置を把握することができません。そこで、カムシャフトの位置を測定するようになりました。これにより、それぞれのシリンダの吸気行程直前に噴射することが可能になったのです。
吸入経路に噴射しておいて、吸気バルブが開くのを待っていたのに対し、気化に最適なタイミングで噴射できるようになったので、燃費が格段に良くなりました。

使途の違い

このように劇的な進歩を遂げてきたインジェクションシステムですが、用途によっても種類分けすることができます。

シングルポイントインジェクション

出典: http://www.slideshare.net/johnalexis3/efis-33404084
シリンダーごとではなく、全てのシリンダーに対して一括して一箇所(1個ないし2個)のインジェクターで燃料を供給する方法です。モノポイントインジェクションとも呼ばれ、SiやSPIなどと省略されることがあります。
燃料を噴射するインジェクターと、撹拌して均一性の高い混合気をつくるミキサー、それらを収めるハウジングと呼ばれる部品が基本構成です。
キャブレター方式のエンジンに対しても最小限の設計変更で搭載が可能で、吸気抵抗の低減と旧設計のエンジンの電子制御化が比較的ローコストで実現可能なシステムです。
インジェクター総数が1本ないし2本程度で済むので、各シリンダごとにインジェクターを用意するマルチポイント(MPI)形式に比べてエンジントラブルが起きにくいというメリットがあります。
ただ、相対的な性能ではMPIのポート噴射式インジェクターには及びません。
終戦間際の日本では航空機への採用もありましたが、空冷星型エンジンの各シリンダーに均一な混合気を均一な圧力で供給することが難しく、実用化とほぼ同時に終戦を迎えたため実績はほとんど挙げていません。
自動車用としてはトヨタのCi(セントラルインジェクションの意・採用エンジン例:1S-iLU、4S-Fi)、日産のEi(採用エンジン例:CA18i、SR18Di、VG30i)、富士重工の1,800ccエンジンのレオーネ、アルシオーネ(EA82系)やレガシィ(EJ18)の初期にSPFIと称して採用したほか、軽自動車用のスバル・EN型エンジンで採用していました。
上記メーカーは、燃料噴射装置付きエンジンの中でも比較的廉価なグレードの物にSPIを採用していましたが、三菱のECI(採用エンジン例:G63B、G54B、G32B等の縦置きエンジン)では、MPI(ECI-MULTI)の本格採用までの間は、ターボエンジンなどの上級グレードの車種にも積極的にSPIを搭載していました。
三菱のSPIはスロットルボディの前に配置された2本の大容量インジェクターがスロットルに向けて集中的に燃料を噴射する独自の形式で、WRCに参戦する車両(ランサーEX、スタリオン)のエンジンにも市販車と同じ構造のSPIを使用し、多数の実績を収めています。
SPIの中で一番成功した例は、ホンダの第1期F1用エンジンが挙げられます。
アメリカではキャブレター仕様を前提に設計した古いエンジン用に、インジェクションへと変更するキットが市販されています。

マルチポイントインジェクション

出典: http://www.slideshare.net/johnalexis3/efis-33404084
シングルポイントインジェクションの後に登場した技術で、インテークマニホールドの吸気ポート付近にシリンダーごとに1本のインジェクターを配置し、各シリンダーに独立して燃料を噴射する方式です。
MPIなどと省略されることがあります。
SPIに比較してきめ細かな制御が行えるので、高出力化や高度な排ガス対策がしやすいのが一番の利点です。現代では燃料噴射装置のほぼ全てがこの形式になっています。ただ、SPIに比べてインジェクター総数が増えるので、特定のインジェクターが不調となる事でエンジン全体の不調を招く可能性が大きくなるという欠点もあります。
原則として4気筒の場合には4本、6気筒の場合には6本インジェクターが配置されますが、その噴射タイミングは複数の種類があります。

1.同時噴射方式
全てのインジェクターが同時に噴射を行うものです。動作原理はSPIに近いものが各シリンダに配置されています。シリンダーによっては噴射から吸入までややタイムラグが発生するため、当然ながら燃焼制御は大雑把にならざるをえません。

2.グループ噴射方式
各気筒の吸入工程に合わせて噴射を行う形式です。たとえば、4気筒エンジンで2気筒が吸入工程にある場合、その2本のインジェクターは同一のECU信号で駆動されるため、厳密な意味での各気筒独立した制御とは言えません。

3.シーケンシャル噴射方式
各気筒の吸入工程に合わせて噴射を行う形式です。全てのインジェクターが独立した信号で噴射を行うもので、緻密な制御ができる一方コントロールユニットの制御は複雑になるためコスト的には不利になります。
現代の主流はシーケンシャル噴射ですが、各シリンダーの燃焼制御が完全に個別に行われているかどうかは、O2センサーの配置に大きく影響を受けます。理想的なフィードバック制御を行う場合には、O2センサーが各シリンダの排気ポートに独立して配置される必要がありますが、コストとスペースの問題で、シーケンシャル噴射でもO2センサーが各シリンダに配置されておらず、シリンダーバンク単位もしくは1個しか持たないケースもあります。この場合、個別にO2センサーが配置されるものよりもシリンダー単位での燃焼制御はやや大雑把になってしまいます。

デュアルインジェクター

出典: http://www.nissan-global.com/EN/TECHNOLOGY/OVERVIEW/dual_injector.html
ツインインジェクターとも呼びます。シリンダ毎に2本のインジェクタを配置する方式です。異なる仕様のインジェクタを組み合わせる事もありますが、同じ仕様のインジェクタを2本配置することが多いです。
これは、より多くの燃料を噴射することが目的ではなく、1本の大容量インジェクターでは細かい噴射量の調整が難しいため、2本のインジェクタで行うものです。同じ容量の燃料を噴射する場合、1本の場合よりも燃料霧化性の向上や噴射時間の短縮などのメリットがあります。その分高額になるので、市販車よりもレーシングカーなどで用いられていました。
現代では省燃費を重視する量産車においても採用が進んでいます。吸気側2バルブのエンジンでは、2つの吸気ポートに対して2本のインジェクターがそれぞれのポートに配置されています。噴射燃料が微粒化する事で燃焼が安定するので、EGR(未燃焼ガスを再燃焼させる装置)を導入する事が一般的になってきている省燃費車では、より多くの未燃焼ガスの導入が可能になります。
さらに、インジェクターを吸気バルブに近い位置に配置することで噴射制御を最適化できるので、シリンダ内へ直接燃料が入る割合を増やすことができます。燃料気化によるシリンダ内の温度低下が促進され、ノッキングを抑えられる分、圧縮比を上げることが可能になります。
このノッキング抑制の分野では、シリンダ内に直接噴射する直噴エンジンほどではないもののコストのかかる高圧インジェクタやポンプなどが不要なので、インジェクタ増によるコストの増加はあるものの既存のポート噴射エンジンを若干改良することで対応できます。
日産では“デュアルインジェクター”、ホンダでは“ツインインジェクションシステム”、スズキでは“デュアルジェットエンジン(デュアルインジェクターを含む複数の機構を採用したエンジンの総称)”、ダイハツでは“デュアルインジェクタ”。
ちなみにデュアルインジェクターを量産車として採用したのは、日産が世界初とのことです。

自己解析による安定性の向上

このように、より低燃費で効率よく燃焼するために進化してきたインジェクションシステムですが、その過程では様々なトラブルも発生していました。トライ&エラーにより克服しきたのです。

センサーの誤作動

インジェクションシステムが理想的な燃焼を導くためには、各センサーから寄せられるデータが要です。言い換えれば、集まってくる信号データを信用するしかありません。
では、これらの信号が間違っていたらどうなってしまうのでしょうか。
電子制御インジェクションシステムは、70年代後半から広く採用されるようになりました。日本では排気ガス規制が厳しくなった昭和53年の三元触媒導入から、キャブレターでの対応が難しくなったことが大きな要因になっています。
私がメカニックになりたての頃には、まさにこの頃の車が車齢8年〜10年を迎え、トラブルを抱える頃でした。
例えば、エンジンの温度を測る“水温センサー”と言う部品。どのように温度を測っているかというと、“サーミスタ”と呼ばれる特殊な素材(温度変化に対して電気抵抗が大きく変化する抵抗体)を使います。一般的には周りの温度が低いと抵抗値が大きく、温度が上昇するにつれて抵抗が小さくなるという特徴があります。これを利用して、コントロールユニットから送り出した電流がセンサーを通過して戻ってくるまでにどれだけ減少するかで温度を特定しているのです。
では、このセンサーが断線したらどうなるでしょう。コントロールユニットには信号が戻ってきませんので“抵抗大=極寒”という判断が下されます。一般的に、温度が低い状況では燃料を増やさないとエンジンの稼働は安定しません。“極寒”と言われたら、“これでもか!”というくらいにガソリンを噴射してしまうのです。本当にエンジンが冷えている状況でしたら濃い目ながらもなんとかなりますが、エンジンが暖まって気化速度があがってからでは燃料が多すぎて燃焼しきれなくなってしまいます。ついにはエンジンが止まってしまいます。

フェイルセイフの導入

このように、センサーの誤作動による不具合を回避するために、現代のインジェクションシステムには“フェイルセイフ機能”が搭載されています。
フェイルセイフとは、誤操作・誤動作による障害が発生した場合に、常に安全側に制御することです。 装置やシステムは必ず故障するということを前提にした考え方です。
集まってくる各種信号に整合性が無いと判断した場合、運行に支障がない程度の固定モードを使って安全に運行させるという内容になっています。
例えば上の例に使った温度センサーの場合、想定外の信号を受け取ったときにはその信号を無視して“水温80℃・吸入空気温度20℃”というような固定のデータを使うようになっています。こうすることで、最適な制御は望めないものの、最悪のケースであるエンジン停止にならずに最寄りのサービスステーションまで走行することができるようにしています。
これは、センサーの種類が増えてよりたくさんの情報収集が可能になったからできる制御方法なんです。例えば、温度センサーから異常信号を受け取ったのにO2センサー(排気ガス濃度を測るセンサー)からの信号は正常だった場合、“排気ガス濃度は正常=燃焼効率は崩れていない”という判断により温度センサーの故障が疑わしいことになります。
このように、たくさんの信号を収集できるようになったからこそより緻密でより安全な制御ができるようになってきたのです。

最後にまとめ

いかがでしたか。なんだかよくわからない“インジェクション”について、少しでも理解していただけたでしょうか。
私たちが普段安全に快適に車を運転できているのは、このような技術の進歩によるところが大きいのです。
メカニックとしては、手の出しようが無いインジェクションシステムよりも、調整すると結果がわかるキャブレターの方が楽しいのですが、みなさんが安心して運転できることの方が大切ですね。
キャブレターいじりは自己の楽しみにしておきます。