“インジェクター持ってきて!”って言ったら何が届く?

“インジェクター”って言うと何を思い浮かべますか? 辞書で調べると“注射器”って出てきます。でも、これからお話するのは医療用の注射器ではありません。正しくは“フューエル・インジェクター”です。つまり、“燃料を注入する人(モノ)”についてです。フューエルインジェクションについて漠然とした内容を判然とさせてみましょう。

インジェクションについて

まずは、“インジェクションシステム”について、その概念考えてみましょう。

インジェクションシステムについて詳しいことは以下の記事にまとめてあります。
お時間があれば、ぜひご一読ください。
もはやインジェクションはほぼすべての車に採用されていますが、私がメカニックになったころは半々くらいでした。“軽もインジェクションの時代”という文句がCMで使われていたのを覚えています。当時はインジェクションを採用することが他と差別化できる要因になったんですね。名前は知っているけど中身はよくわからないシリーズですよね。

燃料による制御の違い

車のエンジンを大別すると、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンに分かれます。ガソリンエンジンは、その名の通りガソリンを燃焼して運動しますし、ディーゼルエンジンは、軽油を燃焼して運動します。
ところが、その燃焼過程は全く別の方法なのです。
ガソリンと軽油では、燃焼速度がまったく違います。ガソリンは燃焼速度が速く爆発的に燃え上がりますが、軽油は燃焼をコントロールしやすい燃料です。
燃料の特性の違いから、エンジン内での点火方法も違うのです。

ディーゼルエンジンの場合

軽油の発火点は250℃程度です。この温度に達すると火炎がなくても火が付きます。一方、エンジンの一番の目的はピストンを往復運動させることですから、圧縮した部屋が膨張する行程が必要になります。
この2つをもっとも効率良く掛け合わせたのがディーゼルエンジンの燃焼方法と言えます。
軽油に限らず、燃焼には空気(の中の酸素)が必要不可欠です。つまり、エンジンの中には燃料と空気を一緒に入れる必要があります。その状態で点火できれば燃焼しますので、一定以上の熱をつくれば良いことになります。
ディーゼルエンジンすばらしいところは、軽油の燃焼に欠かせない空気とエンジンの作動に欠かせない圧縮を掛け合わせて、軽油の着火に利用している点です。
空気を圧縮すると熱が生まれます。その熱を利用しているのです。エンジンが吸い込んだ空気を圧縮して発熱したところへ軽油を噴射して燃焼させます。燃焼によって膨張する力を動力に変えています。
ディー-ゼルエンジンの出力制御は、燃料(軽油)の噴射量を変えることで行われています。

ガソリンエンジンの場合

ガソリンの発火点は300℃程度です。ディーゼルエンジンと同様の行程でさらに高圧縮にすれば、ガソリンでも作動するはずですが、ガソリンの燃焼速度(=爆発)が速すぎてエンジンが壊れてしまいます。
ガソリンは事前に気化させておいて点火することで、エンジンに適した燃焼をすることがわかっていますので、空気とガソリンを混ぜて気化させた“混合気”をエンジンに送り込み、スパークプラグで点火します。
ガソリンエンジンの出力制御は、混合気の量を変えることで行われています。

もともとはディーゼルエンジンに必要でした

ディーゼルエンジンとガソリンエンジンの作動の違いを書きましたが、ディーゼルエンジンには“燃料を噴射”する作業が必要だということをご理解いただけたでしょうか。対してガソリンエンジンには“噴射”の作業は出てきませんでした。
つまり、“燃料を噴射する”という作業は、ディーゼルエンジンのために考えられたものなのです。しかも、空気を圧縮した燃焼室内へ噴射しなければなりませんから、高温・高圧に耐えられるものが必要になります。
さらに、噴射するタイミングも重要ですので、それぞれのシリンダが圧縮し終わる頃に個別に噴射できるように、エンジンと連動するポンプを使っています。



ガソリンエンジンへの転用

ガソリンエンジンでは“キャブレター”によってガソリンを霧状にして、空気と混ぜて混合気をつくっていました。
ですがエンジンの用途の拡大に伴い、キャブレターではいろいろと不都合が出てきました。

キャブレターの限界

最初にぶつかった壁は、飛行機用のエンジンでした。キャブレターはその構造上、ガソリンを一定量貯めておく部屋があります。この部屋からガソリンを吸い出す口は下面に取り付けてあるため、天地が反転すると正常に作動しなくなってしまいます。
上下を守っていても、急降下の際など加速度が重力を上回るとガソリンが浮き上がってしまうので、やはりガソリンが出て行かなくなってしまうのです。

航空機への転用

こうして、飛行機(とりわけ戦闘機)にインジェクションが転用されたのでした。ディーゼルエンジン用の噴射ポンプをほぼそのまま搭載し、吸気ポートの手前にガソリンを噴射するのです。
いち早く採用したのはドイツ軍だったそうです。第二次大戦以前からドイツ軍機にはインジェクションシステムが搭載されていて、キャブレター仕様だった他国軍機よりも優れたパフォーマンスを発揮していたそうです。

自動車への転用

自動車への転用は、1954年のメルセデス・ベンツ300SLが最初だと言われています。
航空機と同じく、ディーゼルエンジン用の機械式ポンプをエンジンで駆動して、ガソリンを噴射させています。
ただし、ディーゼルエンジン用の燃料噴射ポンプは構造が複雑なため、高価で重量もキャブレターとは比べものになりませんでした。自動車のガソリンエンジンにとっては必須ではなかったために、一部の高級車を除いては普及しませんでした。

メルセデス・ベンツ300SLについては、以下の記事にまとめてあります。 “スポーツカー”と言われて思い浮かぶ車は人それぞれだと思いますが、私は真っ先にこの車が出てきます。レーシングカーとして製作された車ですが、その成功はアメリカの自動車ファンを虜にしたのでした。当時ニューヨークの輸入車ディーラーが1,000台の確定オーダーを条件にメルセデスを説得して市販車が誕生したという特異な車です。

インジェクションの仕組み

インジェクションシステムは、ディーゼルエンジン用の機械式から始まりましたが、後に、燃費や排気ガス問題などの需要から電子化が進みます。
基本的な概念は変わりませんが、制御の仕方が異なり、インジェクターの構造も異なります。

まずは機械式インジェクションシステムから

出典: http://fujii-dienst.jugem.jp/?cid=51
ここまでは、ディーゼルエンジン用のインジェクションシステム及び、それをガソリンエンジン用に転用したシステムについてお話ししました。
これらはいずれも“機械式”と呼ばれる方式です。シリンダの数分だけ小さな注射器が並んでいるポンプをエンジンの動力で駆動します。駆動されるシャフトにカムが付いていて、回転しながらそれぞれの注射器をカムが押すようになっています。もちろん注射器を押し込むタイミングは、エンジンのバルブが開閉するタイミングと連動しています。
“ガバナ”と呼ばれる遠心力を利用した機構がついていて、エンジンの回転数が上がると噴射量(=注射器を押し込む量)が増える仕組みになっています。

機械式のインジェクター構造

出典: http://www.irs-japan.com/?p=2243
すべてのインジェクションシステムに言えることですが、インジェクターには常に加圧された燃料が押しつけられています。その状態から開弁すると、燃料が吹き出される仕組みになっています。
つまり、インジェクターはインジェクションシステムにとっての弁機構だと言ってもよいでしょう。
余り良いたとえではないかもしれませんが、口いっぱいに飲み物を含んでほっぺを膨らませるように加圧します。唇の先をわずかに開くと、飲み物が飛び出しますよね。インジェクションシステムは、そんなイメージで動いているのです。
インジェクターの内部構造ですが、本当は断面図があると良いのですが、入手できませんでしたので言葉だけで説明します。
姿形はまちまちですが、機械式のインジェクターはどれも同じ構造と言ってよいでしょう。
強固なスプリングで押さえつけられて閉じている小さなバルブが組み込まれています。仮に、このスプリングを押し負かしてバルブが開く圧力が7barだとしましょう。燃料ラインに5barの圧力を掛けておいてもインジェクターのバルブは開きませんよね。そこへ、ポンプがさらに加圧して7barを超えた瞬間にバルブが開きます。ですが、バルブが開いた瞬間に燃料側の圧力が下がってしまいますので、バルブはすぐに閉じてしまいます。閉じるとまた圧力が上がりバルブが開きます。つまり、ポンプが押している間開きっぱなしではなく、細かく開閉を繰り返しています。
ポンプから加圧が無くなると、5barまで下がって待機しています。

電子制御インジェクションシステム

出典: http://i2848.com.ne.kr/%C0%DA%B5%BF%C2%F7%C1%A4%BA%B8%B0%FC%B8%AE%B9%E6/bosch/l-jet.htm
電子制御インジェクションシステムは、機械式の欠点を補うべく開発されました。機械式のポンプでは、エンジン回転数に合わせて必要なガソリン量を決めておく必要があり、環境の変化に対応できませんでした。エンジンの負荷(上り坂など)により、エンジン回転数が同じでもガソリンの必要量が違うケースは存在しますが、機械式の場合はその調節ができません。
また、吸入空気の温度によって含まれる酸素量が違うので、完全燃焼を狙うためにはガソリン量を微調整する必要があります。
より効率良く燃焼させるために、たくさんのデータを集めながら最適な噴射量を計算できるように、電子化されたのです。
1.吸入空気量
2.吸入空気温度
3.燃焼室温度
4.エンジン回転速度
5.エンジン回転角度
6.排気ガス濃度
7.燃焼速度
これら7つの基本データを元に、最適な噴射量をコンピュータに計算させています。
最近のインジェクションシステムでは、さらに多くのデータを扱ってより緻密な計算をすることにより、省燃費を目指しています。最小の燃料で最大のパワーを引き出すことができれば、それは一番のエコですから。

電子制御式のインジェクター構造

出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%87%83%E6%96%99%E5%99%B4%E5%B0%84%E8%A3%85%E7%BD%AE
こちらは断面図がありあました。とは言ってもよくわからないですね。
機械式では一定圧力を超えるとバルブが開くように設計されていましたが、電子制御式では電気信号によってバルブが開きます。
ソレノイドと呼ばれる部分に電気が流れると、電磁石の原理でプランジャーが引っ張られます。するとスプレーチップと呼ばれる先端部分に隙間ができてガソリンが噴射される仕組みです。
この場合は燃料に掛かる圧力は一定で、電気信号の長さ=開弁時間を調節することで燃料噴射量を制御しています。
圧力差による制御が必要ありませんので、機械式ほど高圧にする必要がありません。おおむね3bar弱程度の圧力で運用されているシステムが一般的でした。

高圧力インジェクション

技術が向上し、高圧を掛けても燃料漏れが起きないレベルに達したので、高圧化が進むようになりました。
第一段階として、“コモンレール式”と呼ばれる高圧により微細噴霧する技術が生まれました。
圧力を高くすることで霧の粒をより細かくすることが可能です。さらに開弁時間を短くできますので、より緻密な制御が可能になります。低圧制御では霧の粒が大きいために気化しにくく、実際の必要量+αの噴射が必要でした。さらにエンジンが高回転域に達するとほぼ常時噴射になってしまいましたが、高圧制御であれば噴射時間を短く制御できますので、燃焼状況に合わせて噴射タイミングを調整できるようになります。
省燃費・高効率、しかも排気ガスもクリーンと、理想に近いシステムになりました。

さらに今日では筒内噴射が可能になったおかげで、さらに理想的な燃焼が可能になったのです。
筒内噴射とは、燃焼室内に直接燃料を噴射する技術です。ガソリンが燃焼・膨張する燃焼室内に噴射するために、超高圧に耐えうるインジェクターが必要になります。



インジェクターの劣化

おおかたのインジェクションシステムの概要、及びインジェクターの型式や働きについてご理解いただけたと思います。
インジェクターの仕事は、エンジンに燃料を供給する際のバルブであり、ガソリンを気化させる目的においては霧化させることが大きな役目です。
そのためには驚くほど小さな世界での精度が求められ、エンジン内部という極悪の環境下でも最高の仕事を求められるのです。
インジェクターの先端にあるノズルは直径2mm程度です。この中で小さな弁を開閉しなければならないのです。作動に偏りが出てくると、霧化が均一に行えなくなります。噴射しても綺麗な霧にならず、水鉄砲のように糸状に吐出されてしまいます。これでは正常な気化は望めません。
そして、インジェクターが閉じているときは、どんな微細な隙間も許されません。少しでも隙間があれば、燃料は容赦なく漏れ出すでしょう。インジェクターから燃料漏れが起きると、燃料供給システム内の圧力が保てなくなります。言い換えれば、エンジン内部に(必要無いときに)燃料が入り込んでしまうことになります。
こうなると正しい制御はできません。
不要な燃料が燃焼室内に流れ込む+規定量の噴射=燃料過多になりますよね。これでは燃焼仕切れなくなってしまいます。そうでなくてもエンジンは最高のパフォーマンスを発揮できなくなり、燃費は悪化し、排気ガスは汚れ、不完全燃焼による煤がエンジン内部を汚していきます。
さらにそれがガソリンだった場合、余分なガソリンは燃焼室からシリンダへ下がりシリンダとピンストンリングの隙間からクランクケース内へと下がります。
この過程で、シリンダ壁にまとわりついていたエンジンオイルの油膜はガソリンに侵されてしまいますし、クランスケースへ入り込んだガソリンは、エンジンオイル自体をも侵してしまいます。

劣化の原因

出典: http://www.phoenixs.co.jp/phoenixs/news/ij-tuning/ij-tuning.htm
ほとんどの場合は“汚れ”なんです。一見すると透明度が高く透き通って見えるガソリンですが、残念ながらその中には無数の不純物、すなわちゴミが混入しています。もちろん、ガソリンタンク内部の燃料フィルターで漉し取っていますが、すべてが取り切れる訳ではありません。また、インジェクター内部にもフィルターが付いているのですが、こちらも完全ではないのです。ガソリン内のゴミを完全に取り去ろうとすると、ガソリン自体の流れを阻害してしまうからです。言い換えれば、それほどに小さなゴミが存在しているのです。そのわずかなゴミをバルブに噛み込んでしまうと、ぴったりと閉じることができません。
もう一つはタール分です。原油から精製を繰り返してガソリンができあがります。その過程で、ほぼすべてのタール(油分)を取り除いているのですが、それも完全ではありません。
ガソリン内にあるわずかなタールの蓄積が、ガム状になって小さな隙間に入り込んでしまうのです。たったそれだけのことで、インジェクターノズルのバルブには隙間が出来てしまうのです。
筒内噴射(直噴)エンジンでは、燃焼時に発生する煤も大敵です。ノズルの先端が燃焼室内に露出していますから、燃焼時にはその燃焼ガスを浴びることになります。完全燃焼もしくはそれに近い状態でしたらほとんど煤は出ませんが、わずかな変化から空燃費がずれると不完全燃焼に陥り煤が出てしまいます。
ノズルの先端にあまりに多くの煤が付着してしまうと、正常な噴射が出来なくなってしまいます。

インジェクターのメンテナンス

インジェクターを車輌から取り外し、点検及びクリーニングする方法です。

リーク&パターンテスト

出典: http://www.phoenixs.co.jp/phoenixs/news/ij-tuning/ij-tuning.htm
まずはリークテストと噴霧パターンのテストです。
機械にセットして、規定圧力をかけます。このときに、先端からぽたりぽたりとしずくが落ちるようでしたらアウトです。
リークテストをクリアできたら、次はパターンテストです。擬似的に噴射信号を入力してやると、勢いよく噴霧してくれるはず…です。
上の画像でもおわかりいただけるでしょう。ある程度使用したインジェクターは、これくらいのバラつきは出るはずです。直射しているものがあれば、きれいな霧を吹き出しているものもありますよね。霧にはなっているものの斜めに噴射しているものも要注意です。
エンジンにセットされている状態で斜めに飛び出してしまうと、側壁にあたってしまって綺麗に気化できなくなってしまうからです。

噴射量のチェック

出典: http://www.phoenixs.co.jp/phoenixs/news/ij-tuning/ij-tuning.htm
リークテストとパターンテストが終わったら、噴射量のテストです。
仮にリークがなかった(しっかりと閉じている)としても完全に開いているかどうかはわかりませんよね。ですから、擬似的に噴射信号を送りながら、単位時間内にどれだけの噴射量があるかを確認します。
シリンダごとに大きく違うようでしたら、理想的な燃焼は望めません。
それどころか、足りないシリンダでは不完全燃焼が起きる危険もあります。すべてのインジェクターがほぼ同量の噴射量であることが理想です。

クリーニング

出典: http://www.phoenixs.co.jp/phoenixs/news/ij-tuning/ij-tuning.htm
これまでのテストでなにかしらの不具合があれば、インジェクターを洗浄してみましょう。貴金属などを綺麗にするのと同じ超音波洗浄機を使いますが、振動周波数や周波サイクルなどは専用に開発されたものです。専用の薬剤も洗浄効果を上げてくれます。
この際には、フィルターバスケットはもちろん、先端のキャップやシールリング、スペーサーも交換します。可能な限りゴミを持ち込まないのが鉄則です。
目に見えないようなサイズの微少なゴミで、トラブルを起こす部品なのですから。

再度チェック

出典: http://www.phoenixs.co.jp/phoenixs/news/ij-tuning/ij-tuning.htm
洗浄が済んだら、もう一度リークテスト、パターンテスト、噴射量チェックを行います。
洗浄が上手くできていれば、不具合が改善できているはずです。
特にパターンの悪かったインジェクターが綺麗なパターンに戻ることはよくあります。
程度問題ですが、リークが酷いインジェクターは洗浄だけでは無理なケースも少なくありません。ノズルチップにキズや摩耗がある場合は、洗浄では回復できないからです。
洗浄でどうにもならない場合は、交換しか方法がありません。

インジェクターチューニング

さてここまで、インジェクションシステムの概要からインジェクターの役割、そしてインジェクターのメンテナンスまでお話してきました。
ここからは、ちょっとっしたチューニングテクニックのお話です。
誤解しないで下さいね。私はあくまでもノーマル派です。自動車メーカーは様々なシチュエーションを想定して、出来るだけバランスのよいセッティングを見いだしてくれています。ですから、おかしな使い方をしない限り、ノーマルセッティングが最適であると思っています。
過度のチューニングやセッティング変更は御法度ですよ。

パターン変更

噴霧パターンを変更することです。
例えば、同じメーカーで排気量も同じだと、ほぼ噴射量は同じはずです。すべてがそうだとは言えませんが、エンジンの性格を変えるために噴霧パターンが違うインジェクターを使っているケースがあります。もしくは、世代によって違うこともあります。
また、他メーカーでも、インジェクションシステムが同じメーカー製のものでしたら、インジェクターも互換性があるかもしれません。
正直、インジェクターの詳しいスペックを入手することは困難ですが、ネット上を探し回ってみれば案外使える体験談が見つかるかもしれません。
同じ車でも、モデルチェンジ前はシングルジェットタイプだったものが、モデルチェンジ後はツインジェットタイプに変更されていたりすることは少なくありません。
ただし、噴射量が同等もしくはほぼ近しい場合のみにして下さい。最近の利口なインジェクションシステムでしたら、わずかな差異は排気ガス濃度からのフィードバックで調整可能だと思いますが、噴射量の差が大きすぎると、調整しきれなくなってしまってエンジン不調やエンジンストップ、最悪の場合はエンジンを壊してしまうことにもなりかねません。

増量インジェクター

上の項で書いた通り、基本的には御法度です。
あくまでも増量が必要になった場合のみの対処法です。
増量が必要になった場合って…なんでしょう?
吸気・排気経路を変更して、吸気効率が大幅に増えた場合は、ガソリンの増量が必要になるかも知れませんね。
ターボチャージャーやスーパーチャージャーを追加・変更した場合も増量が必要でしょう。
最近はあまりしなくなりましたが、ピストンボアを増やして排気量アップした場合もガソリンが余分に要るはずですね。
と、まぁ、やはり増量が必要なケースというのは、あまり一般的ではありませんので、参考程度にしておいてください。

ちなみに、逆転の発想で減量インジェクターを試したことがあります。
低回転から高回転まで1本のインジェクターでまかなうのは、実は少々無理があります。とはいえ、ほとんどの車はそうなのですが…。
車の(エンジンの)性格上、あまり高回転を使わない車の場合は、噴射量を減らした方が調子も燃費もよくなりました。
1,600ccエンジンに1,500ccエンジン用のインジェクターを取り付けて見たところ、アイドリングから3,000rpmくらいまでのフィーリングは良くなりましたし、燃費もわずかに良くなりました。
ですが、5,000rpm以上ではあきらかに燃料不足に陥ります。コントロールユニットが精一杯“もっとガソリン出してー!”と言っても、インジェクターが小さいのですから仕方がありません。

インジェクターの作動時間

補足で説明しておきます。
エンジンの回転速度と爆発間隔って想像できますか?
例を挙げて説明してみます。
4ストロークエンジンの場合、爆発1回につきクランクシャフトが2回転します。その間に吸気行程も1回だけです。
アイドリングの時、計算しやすいように600rpmとしましょう。rpmはrevolution per minuteですから、1分間に600回転です。2回転に1度爆発しますから、爆発は300回ですよね。1分回に300回と言うことは、1回当たり0,2秒!ですよ。
吸気・圧縮・爆発・排気のサイクルを、0.2秒に1度行っているんです。これ、アイドリング時での話ですからね。
6,000rpmの時には、0,02秒に1度ってことです。0,02秒の間にインジェクターはガソリンを噴射していることになりますね。
こんなに短い時間のなかで仕事をこなしているのですから、開弁不良や気密不良があってはまともな仕事はできません。
噴射量を極端に変更できないのも同じ理由です。
ごくごくわずかな時間の中で制御していますから、噴射量が少ないインジェクターでは足りなくなってしまいます。
増える分には問題ないように思えますが、大容量のインジェクターで少量噴射するのは至難の業なんです。ただでさえ百分の何秒の世界ですから、それを設定値の半分の時間にしろというのは無茶というものですね。

容量問題を克服する技術

出典: http://www.nissan-global.com/JP/TECHNOLOGY/OVERVIEW/dual_injector.html
これは、日産自動車が採用しているデュアルインジェクターという技術です。
1本のインジェクターよりも、半分の容量のインジェクターを2本使った方が、より緻密な制御ができるのです。エンジン回転が低い時など、噴射量が少なくて良いときは1本だけで噴射します。たくさん噴射しなければならないときには2本で噴射します。
大容量インジェクターでは少量噴射の制御が難しかったのですが、デュアルインジェクターにすることで解決できています。
上の図は、インジェクターがより吸気ポートに近く配置できるという説明です。これも気化スピードに大きく関わることですし、燃焼温度を下げることができるのでとても素晴らしい技術です。
レーシングカーなど一部の限られた分野の技術でしたが、広く一般車にも採用されるようになりました。とりわけ吸気バルブが2本あるエンジン(DOHC4バルブなど)でしたら、大きな構造変更をすることなく採用できますので、費用対効果が大きいと言えます。

追加インジェクター

これは、エンジンチューニングと併用する技術です。
例えば、ターボチャージャー付きの車輌で、タービンを大型のものに換装した場合、燃料を増量する必要がありますよね。後付けのスーパーチャージャーキットなどを追加した場合でも同じです。
吸気経路のどこかにインジェクターを追加して、噴射燃料を物理的に増やす方法です。
これも、逆転の発想を用いれば、エコに使えるかもしれません。
ノーマルのインジェクターを噴射量の少ないモノに換装して、追加インジェクターで補うことができれば、少量噴射時の制御精度が落ちる問題が解決できて省燃費につなげられるかもしれません。
追加インジェクターを作動させるプログラムやそれに必要なデータ収集など課題も多くありますが、既存の車輌に一手間を加えて排気ガスをクリーンにできるのなら、面白い試みではないかと考えています。
例えば、私の愛車は今年で車齢10年を迎える老兵です。2.0LDOHCターボエンジンを搭載しています。すでに走行距離は13万キロを迎えそうな勢いですが、まだまだ現役で頑張ってくれています。
2.0Lにターボチャージャー付きですので、上述したとおりアイドリング時の制御は結構大まかなのだろうと感じています。この車のノーマルインジェクターを半分程度の容量に変更して、もう1本ずつ追加できれば、アイドリングの制御をもっと緻密に出来るはずです。
たくさん欲しいときは2本で頑張ってもらえばいいのですから、追加インジェクターの固定とそれを稼働させるプログラムを用意できれば、試してみたい内容です。

最後に

フューエルインジェクションシステムは、今やエンジンのマネージメントシステムとして必須のものになりました。メカニックの身としては、いじるたびに答えが返ってくるキャブレターの方が楽しいのですが、地球環境を取り巻く様々な問題を考えると、省燃費&クリーン排気は避けて通れない課題です。
それならば、インジェクションシステムをチューニングして、よりクリーンに、よりエコにしてみたいなぁ、などと妄想しています。
机上の空論ではできる気がしますので、ぜひ我が愛車で取り組んでみようと思います。