【シトロエンAX】不景気に立ち向かった独創的で小さな戦士

シトロエンにとって、プジョーとのジョイント企業“PSA”になって初めての作品“VISA(ヴィザ)”の後継モデルとして1986年にデビューしたAX。1979年、イラン革命に端を発した“第二次オイルショック”の影響から“今後の車には燃費向上が求められる”と考え、“コストを掛けない軽量化”を求めて設計されています。おかげで非力ながらも軽量ボディの恩恵による“操る楽しさ”を秘めた車に仕上がりました。

シトロエンについて

シトロエンの操業は1919年。特殊な歯車と大砲用の砲弾の製造で財を成したアンドレ・シトロエンが、欧州でもモータリゼーションを目指して“フランス版フォード”になるべく立ち上がりました。象徴となるエンブレムには、歯車製造で起業したシトロエンらしく、2つの山形ギヤをモチーフにしたデザインが採用されました。
派手好きなアンドレは革新的な技術を好み、有名なところでは“水と空気のサスペンション”と呼ばれるハイドロニューマチックや“ボビンメーター”を用いた近未来的なダッシュデザインなどがあります。しかし、ワンマンな経営が祟ったことから1976年にはプジョー傘下に入り、PSAグループとして生まれ変わりました。
当時はシトロエンの独創性が薄れることを危惧する声もありましたが、プジョーの技術をうまく取り入れながらもシトロエンらしさは受け継がれています。



シトロエンAXという車

出典: http://www.citroenax.net/history.htm
AXのデビューは1986年です。基本コンポーネントは、3年前にデビューしていたプジョー・205のものを流用しています。8バルブSOHCのガソリンエンジン1,000cc・1,100cc・1,400ccと、プジョーが得意とするディーゼルエンジン1,400cc(後に1,500cc)というラインナップです。前期型はアルミ製のエンジンブロックですが、後期型ではスチール製エンジンブロックに変更されています。
日本への導入はありませんでしたが、4×4モデルも生産されました。ボディタイプは3ドアと5ドアのハッチバックです。
3年前にデビューしたBXでマルチェロ・ガンディーニ(ベルトーネ)が魅せた空力特性に優れたデザインをうまく取り入れ、cd値0.34を獲得しています。さらに、鉄板よりも重たいガラスの面積を最小限にし、プラスチック部品も多用しました。
その結果、欧州仕様のベースモデルでは640kgと超軽量を実現し、燃料効率に優れたモデルになっています。
1,400ccツインキャブで85psのスポーティモデル“GT”も登場し、軽量なボディと十分なホイールストロークのサスペンションのおかげで、活発な動力性能と操縦性を手に入れています。

マイナーチェンジ

出典: http://www.citroenax.net/history.htm

1991年にはマイナーチェンジが行われ、前後バンパーのデザインやダブルシェブロンマークの位置変更、ダッシュボードのデザインが変更されました。
翌1992年にはシリンダーブロックがスチール製に変更されています。GTはマルチポイント・インジェクションで95psに強化され、“GTI”に発展しました。
足回りに関しても、プジョー・106と同様に、ホイールボルトの本数が3本から4本へと変更されました。
後継車となるサクソがデビューした1996年以降も、廉価モデルが継続生産されていました。

プジョーとの関係性

シトロエンAXは、プジョー205をベースに造られています。そして、そのAXをベースにプジョー106が造られました。その106をベースにシトロエンSaxoが造られ、Saxoをベースにプジョー106S16が造られています。
これはすべてのモデルにおいて共通して行われていて、シトロエンC3とプジョー206やシトロエンZXとプジョー306、シトロエンBXとプジョー405など、お互いの新しいアイデアを取り込みながら進化しています。
しかも、お互いの“色”を尊重しているところが面白いですね。

プジョー106についての記事もぜひご覧ください。 かつて日本には“韋駄天ターボ”と名付けられた車がありました。本来は5ドアハッチバックの小型大衆車として開発されましたが、後に元気なエンジンを積んだ3ドアモデルが追加されました。その走りはまさに“韋駄天”。ところ変わっておフランスでも似たような出生の車がありました。プジョー106という小さなハッチバック車です。



スペック以上の性能

出典: http://www.citroenax.net/history.htm
こぢんまりした室内に乗り込んでドアを閉めると、“バン”っといういかにも廉価車という音。なぜだか好きなんですよね。最近の出来が良すぎる車たちよりもなんだか落ち着けます。
キーをひねれば意外にも無造作にエンジンが始動してくれますので、軽めのクラッチペダルを踏み込んでギヤを1速に。この節度感の無いシフトフィーリングも80年代設計のFF車では常識で、つい“これこれ”と声が漏れそうです。
ステアリングにパワーアシストはありませんが、車重が軽いおかげかたいして重さは感じません。アクセルを踏み込むとスペックから想像する以上に元気なエンジンで、右足の動きに即座に反応するレスポンスの良さは、なにやら楽しさを感じさせてくれます。
各部で“ガタガタ”“ピシピシ”といろいろな小さな音を発しながらもエンジンはスムーズい吹け上がり、少しクロス気味のギヤ比と相まってグングン加速していきます。
ホイールストロークが大きいのではじめはロール量に驚きますが、行きすぎることなく粘りながら路面をつかまえていてくれますので、慣れてしまえばこのクセを活用して踏み込んでいけます。
この感覚が実に楽しくて、“人と車が一体化する”などと大それたことではなく“操る楽しさ”を体感できるのです。

最後に

メカニック時代は、フランス車・イタリア車を中心に扱っていましたので、多くのシトロエン車を診ていました。
中でもこの小型のフランス車は日本での使い勝手がとても良く、非力ながらも軽快なフィーリングのおかげで街の中でも扱いやすい車です。
最終モデルでも車齢20年を迎えますのでなかなか維持が難しいですが、小さなフランス車の魅力は“乗ってみなけりゃわからない”ですよ。