ロードムービーの名作『バニシング・ポイント』【ダッジ・チャレンジャーが大活躍!】

1970年代のアメリカを代表する混沌として閉塞感をロードムービーによって表現した『バニシング・ポイント』は、とても単調なシナリオの中に色々な要素が詰め込まれたカルト映画です。ただひたすら主人公が走っているだけなのですが、気付けばどっぷりと引き込まれる雰囲気を持っています。もちろん名車が登場しますので、これを機にご覧になってはいかがでしょうか? ネタバレにならない範囲で魅力をお伝えしたいと思います。

『バニシング・ポイント』とは?

(イメージ画像) 1971年に製作された『バニシング・ポイント』とは「アメリカン・ニューシネマ」と呼ばれる当時生み出された新しい映画ジャンルに属しているロードムービー、カーアクション映画です。当時のアメリカの世相を色濃く反映した作品となっているので、現代日本に住む私たちには少し分かりづらいところもありますが、殺伐とした気分や、どこか悲しい感じなどは少し共感できるかもしれませんね!
本国のアメリカでは公開当時あまり人気となりませんでしたが、なぜか日本では1971年度の「キネマ旬報ベストテン」で第5位に入り、ヒット作となったようです。今ではアメリカ、日本に限らず世界中に熱狂的なファンをもつカルトムービーとして知られており、「プライマル・スクリーム」や日本の「ブランキージェットシティ」といったアーティストもその影響を受けたと明かしています。
監督はアメリカのドラマ監督として有名だった「リチャード・C・サラフィアン」で、他にもホラーの代名詞として有名なTVドラマ「トワイライトゾーン」、「バットマン」などを手がけています。



『バニシング・ポイント』を楽しむための予備知識

(イメージ画像) 映画『バニシング・ポイント』は、それ単体でも十分に楽しい作品なのですが、当時のアメリカの世相を反映したものとなっているために、事前に1971年のアメリカについての知識をある程度つけておくと、さらに楽しむことができます! というわけで、当時のアメリカを包んでいたなんともいえない空気間を少しだけ説明させていただきます。

1960年代のアメリカはベトナム戦争の長期化や黒人たちによる公民権闘争、暴動、社会不安といった度重なるアメリカの変革期にあり、色んな意味で国民がかなり疲れを呈していた時代で、ある種の諦めめいた感情が若者の中に広まっていました。そのために、自暴自棄になる者や、今さえ良ければいいといった刹那的な生き方をもつ者が現れ、それが保守的な大人たちに対するカウンターとして文化や思想が広まっていき、いわゆる「カウンターカルチャー」というものが発生しました。
そしてそれが1970年代に入ると隆盛を極め、若者文化としてメジャーになると映画界には「アメリカンニューシネマ」というジャンルが築かれるようになり、『バニシング・ポイント』はその中からうまれたのです。
ロック界で有名な「ウッドストックフェスティバル」や新しい生き方「ヒッピー」などもこの時代にあたるので、それらを参考にするとより、深く当時のアメリカの空気がわかると思います。

『バニシング・ポイント』のネタバレしない程度のあらすじ

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1970年代のアメリカで、新車を運ぶ運送業をしている麻薬常習者の主人公「コワルスキー」は、切れた麻薬を補充するために地獄の天使というバーに訪れ、そこの店主から1つの仕事を引き受ける。その仕事はデンバーからサンフランシスコまで1970年型の白い「ダッジ・チャレンジャー」を運ぶという仕事で、翌日の午後3時まで、15時間以内に運べるか? という賭けのようなものであった。
時間的な猶予があまりなく、ついついスピードを出しすぎてしまった「コワルスキー」はその姿をオートバイ警官に発見されてしまい、追跡を受けることになるが、元オートレースのドライバーだった彼はそれを見事に振り切る。しかし、その行動は警察のプライドを傷つけてしまい、さらに執拗な追跡を受けるという結果になった。
それでも「コワルスキー」は激しさを増していく包囲網を次々と打ち破っていき、気付けば地元のラジオで働いている盲目のDJ「スーパー・ソウル」に注目され、彼や、ラジオを聴いてその暴走を応援する人たちに助けられながら、彼は仕事を全うするために走り続けていく。

といった内容になっています。本当にただひたすら暴走しているという話なのですが、主人公の過去の話や彼を取り巻いていた環境などがシナリオに深みを与えてくれ、フラッシュバック手法を取り入れて飽きがこないようにという工夫もされています。



『バニシング・ポイント』の魅力Part1.「コワルスキー」の感情

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主人公である「コワルスキー」はお世辞に映画の主人公っぽいタイプとはいえません。麻薬常習者で非常に冷めているようで急に感情的になったりとかなり不安定な精神をもっていますし、何をしてもすでに無駄という「虚無感」すら漂わせています。しかし、彼は元々海兵隊隊員をしていたり、他にもレースドライバー、警官といった仕事をしてきたほど、心は熱い人間でした。そしてとても正義感が強く、愛する人を大事にする優しさもあったのですが、その姿はもう見る影もなくなっています。
一体「コワルスキー」にはどんな出来事があって、ここまで荒んでしまったのか。というのがこの物語の基本的な部分になってきます。とても彼は「陰鬱」なので、見ているとそれに引きずり込まれそうですし、タイトルの『バニシング・ポイント(消失点)』といった意味がとても気になってきます。
これ以上はネタバレになってきますので、あとはご自身で確認してみてください。

『バニシング・ポイント』の魅力Part2.「ダッジ・チャレンジャー」

主人公である「コワルスキー」が運ぶのは白い1970年型の「ダッジ・チャレンジャー」で、物語のもう一人の主人公といっても過言ではないほど活躍します。ずっと同じ車に乗って暴走しているので活躍するのは当たり前といえば当たり前なのですが、とにかく凄く存在感があるんです! ひたすら走るその姿はクエンティン・タランティーノ監督の映画「デス・プルーフ in グラインドハウス」でオマージュされ、完全再現されるなどしています。
主人公の相棒である「ダッジ・チャレンジャー」はアメリカの自動車メーカーである「クライスラー」が、1970年に販売を始めた「ポニーカー(手ごろな価格でコンパクトなスポーツカー)」で、「プリムス・バラクーダ」のボディをベースに作られました。既に同じ市場では伝説的な名車「フォード・マスタング」があるにも関わらず、1970年の間に8万台も売り上げる人気を呼びます。
1974年まで販売され、1978年には「三菱・ギャランΛ」の北米仕様モデルとして名前だけ復活し、2008年には新型が登場しています。

『バニシング・ポイント』の魅力Part3.個性的な登場人物たち

(イメージ画像) 『バニシング・ポイント』はすでに説明させて頂いたとおり、主人公がすでにだいぶ個性的なのですが、彼が出会う人間たちもかなり個性的になっています。ただし、今現在の日本でそう思ってしまうだけで、当時のアメリカでは比較的普通だったのかもしれません。また、登場するキャラクター全てが当時のアメリカの世相を反映しているというのも見所だったりします。

まず、ひたすら執拗に追いかけてくる警察たちは公権力の証として、主人公に襲いかかってきます。暴走しているので当たり前といえば当たり前なんですが(笑)。そして、主人公を助けたDJは黒人でなおかつ盲目という1960年代の公民権運動を暗喩をしており、国家と戦った人歴戦の勇士のその後となっており、戦いに負けてどうしようも無くなった主人公と相反する位置なのかもしれません。
ここからは少しネタバレになるのでボカして書いていきますが、途中で出てくるカップルや、バイクに跨っている女性はまさにそのまま「ヒッピー文化」を体現するもので、彼らは今を生きることだけに集中しており、ここでまた絶望している主人公と相反するんです。
他にも途中で出会った老人には将来の絶望すら無くした人間の面影を感じるなど、見れば見るほど深くて息苦しい映画となっています。

『バニシング・ポイント』の魅力Part4.実はリメイクされました

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1997年に『バニシング・ポイント』は「バニシング・ポイント 激走2000キロ」としてリメイクされました。形式は映画ではなく「FOXテレビ・ネットワーク」のTVドラマとなっており、ストーリーや主人公の設定などの設定は変えられ、『バニシング・ポイント』の様な薄暗い雰囲気はなくなっています。さすがに規制が増えている現代ではそのまま再現するのは無理があったようで、主人公にいたっては全く別人といって良い程かわりました。特に愛するものを失って自暴自棄になった前作と比べ、今回は愛するものために暴走するという真っ向から反対する理由となっています。
しかし、主人公の相棒となる車は原作と同じ「ダッジ・チャレンジャー」となっておりますので、そのあたりは少し安心ですね!
主演は「ロード・オブ・ザ・リング」の「アラゴルン」でブレイクした「ヴィゴ・モーテンセン」となっているので、彼のファンの人にもぜひ見て頂きたい作品です!

気になるリメイク版のシナリオ

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そこで原作とはどういう風にシナリオが変えられたのか気になりますよね! ということでこちらもネタバレしない程度にあらすじを書いていきましょう!
陸軍特殊部隊で優秀なレンジャーをしていた主人公「ジム・コワルスキー」は軍を除隊した後、カーレーサーとして活躍したが、愛する「ラフィニア」と結婚をすることを機会に、レースを引退し車の運送業をして生計をたてていた。その仕事は主に「ビンテージカー」を扱うもので、アイダホ州のリドルという街でささやかな生活を送っていたのだが、そんな「ジム」にある事態が訪れる。
ある日「ジム」は、ニューメキシコ州アルバカーキからソルトレイクシティへ「ダッジ・チャレンジャー」を運ぶ仕事を依頼され、愛する妻の初産までには帰ってこられるだろうと、その仕事を引き受けた。しかし、道中友人に電話してみると、妻が緊急入院し、子供の命までもが危ないと聞かされ、「ジム」は妻に会いにいくために車を飛ばして飛行場に向かおうとするが、速度を出しすぎてしまったために、スピード違反で警察に捕まってしまう。仕方なく罰金を払おうとするが、その警察官は悪徳警察官だったために、罰則を次々と増やし逮捕しようとした。しかし、時間のない「ジム」はその場から逃走してしまう。
といった内容に変更されました。大本のカーチェイスはそのままなのですが、かなりマイルドな内容になっています。また、主人公がとんでもなく強いので、あまり悲壮感を感じられません。時代が変わったということなんでしょうね。

主人公役の「ヴィゴモーテンセン」ってどんな人?

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「ヴィゴモーテンセン」はニューヨーク州マンハッタン出身の俳優で、詩人や写真家としても活躍しているマルチな人です。「ロード・オブ・ザ・リング」の「アラゴルン」役で世界的に脚光をあび、2008年の「イースタン・プロミス」ではアカデミー賞にノミネートされたという実力派です! 
英語のほかにもスペイン語、デンマーク語、フランス語、イタリア語、スウェーデン語、ノルウェー語という高い語学力も誇っています。男前で賢いとか本当に凄いですね! また、「パーシヴァル・プレス」という出版社を創設・経営しており、博士号ももっているらしく、元ガンズ・アンド・ローゼズのギタリストバケットヘッドとCDを作ったりもしています。
小さいときには実家の牧場で乗馬や、釣りなどを楽しみ、カウボーイになりたかったという可愛い逸話があり、学生時代に成績は優秀で水泳部のキャプテンを務める文武両道を体現しているかのような人ですが、当時はあまりぱっとせず小柄で地味だったというので、人は変わるものなんですね。
代表作は上述の「ロード・オブ・ザ・リング」、「イースタン・プロミス」と「ザ・ロード」となっています。

『バニシング・ポイント』まとめ

1970年代のアメリカに現れた「アメリカン・ニューシネマ」の申し子『バニシング・ポイント』の魅力は伝わったでしょうか? とても空虚で陰鬱な映画ですが、どことなく惹かれる部分を感じられる人もいるのではと思います。もちろん、カーアクション映画としても楽しめますので、車が好きな人や、当時のアメリカの雰囲気を感じたい方は、ぜひご覧になってください。

それでは『バニシング・ポイント』の陰鬱さを吹き飛ばすために、安全運転を心がけてカーライフを楽しんでください!